「最近、疲れやすい」「朝起きるのがしんどい」「仕事に行く前に心臓がバクバクする」「翌日のことを考えると眠れない」と感じている方、もしかしたら「適応障害」かもしれません。
適応障害は近年増加傾向にあります。進学、就職、結婚など、人生の転換期に発症しやすいとされ、20代~40代の若年層に多く見られます。 具体的な症状は人それぞれですが、強いストレスにさらされた後、仕事や日常生活に支障をきたす精神的な不調が現れるのが特徴です。
この記事では、適応障害の診断基準や症状を分かりやすく解説します。さらに、休職時の過ごし方だけでなく、手続きや傷病手当金、自立支援医療制度といった経済的サポートについても詳しくご紹介します。
適応障害は、適切な治療とサポートを受ければ回復できる病気です。 一人で抱え込まず、周囲に助けを求めて下さい。
この記事の監修者
適応障害の診断基準と症状の理解

適応障害とはどのような病気なのでしょうか。また医師はどのような点で診断しているかについても解説します。
適応障害の主な症状
適応障害とは、特定のストレスが降りかかってきた際、ストレスに適応できずに心や体に様々な症状が現れる病気です。進学、就職、結婚、出産といったライフイベントや、人間関係のトラブル、職場でのプレッシャー、近しい人との死別など、ストレスの原因は人それぞれです。誰にでも起こりうる身近な病気です。
「気分が落ち込む」「不安で心臓がバクバクする」「夜眠れない」「急に涙が出てくる」 といった精神的な症状から、「体が疲れる」「頭が痛い」「吐き気がする」など体の症状が出ることもあります。
精神科?心療内科?適応障害は何科にかかるべきか
適応障害かもしれないと思った場合、何科にかかれば良いか迷う方もいるかと思います。結論から言うと、精神科・心療内科を掲げているクリニックに受診するのが良いです。最近では、メンタルクリニックやこころの診療所など、精神科や心療内科の名称ではないクリニックも増えていますが、メンタル疾患を中心に見ているクリニックであれば問題ありません。
ただし、内科や小児科を中心に見ていて、一部心療内科も見ているというクリニックの場合、後述する自立支援制度が使えない場合や、適応障害の休職対応に慣れていない場合もあるので注意が必要です。クリニックのホームページを見てもらうと、どのような疾患を中心に扱っているか紹介されていることが多いので、事前に確認して受診されるのが良いかと思います。基本的には、メンタル疾患を中心に扱っているクリニックへ受診するようにしましょう。
最近ではオンライン診療の普及もあり、精神科・心療内科でもオンラインでの受診が増えています。通院できる場合は基本的には対面での診療が望ましいですが、周辺のクリニックの予約が空いてない、そもそも近くに精神科クリニックがない、体調が悪く外出が難しいという事情の場合、オンライン診療も検討されても良いでしょう。
適応障害の診断基準を知るためのポイント
適応障害は、医師が患者さんの訴えを聞いて、以下のポイントを踏まえて診断を下します。
1.明らかなストレス因子の存在
症状が現れる前に、何らかのストレスとなる出来事があったかどうかを確認します。例えば、「上司からの叱責がきっかけで眠れなくなった」といったように、症状とストレスの関連性が重要になります。
2.ストレス因子に対する過剰反応
同じストレスを受けても、適応障害を発症する人とそうでない人がいます。適応障害の場合、そのストレスの程度に釣り合わないほど強い反応を示すことが特徴です。例えば、プレゼンテーションで小さなミスをしただけで、過度に自分を責めたり、強い不安を感じたりするといったケースです。
3.社会生活や仕事への影響
適応障害の症状は、日常生活や社会生活に支障をきたすほど深刻な場合があります。例えば、家事が手につかなくなったり、仕事に行けなくなったり、集中力が低下してミスが増えたりといった影響が現れます。
4.他の精神疾患との鑑別
うつ病、パニック障害など、似たような症状を示す他の精神疾患との区別が重要です。詳細な問診や検査を行い、他の疾患の可能性を除外していきます。
特に、明らかなストレス因子の存在は重要な診断ポイントになるので、医師に話をするときは、症状の発症前に何があったのか詳しく話をすることが大事です。
適応障害とうつ病の違い
適応障害とうつ病は、症状が似ているため混同されやすいですが、原因や経過に違いがあります。
| 適応障害 | うつ病 |
---|---|---|
原因 | 特定のストレス因子 | 原因が特定できない場合も多い |
経過 | ストレス因子がなくなると症状が改善 | ストレス因子とは無関係に症状が続く |
気分の落ち込み | ストレス因子に関連した内容 | 何に対しても興味や喜びを感じない(抑うつ気分) |
例えば、昇進に伴うプレッシャーがきっかけで不眠や食欲不振になった場合、昇進という特定のストレスが原因と考えられるため、適応障害の可能性があります。一方、特に思い当たる原因がないのに、何に対してもやる気が起きず、気分が落ち込んだ状態が2週間以上続く場合は、うつ病の可能性を考慮する必要があります。
ただし、初期の段階では適応障害とうつ病の鑑別が難しいこともあり、その場合はストレス原因を取り除いた上で、症状が改善するかどうかをみて判断することもあります。
実際の臨床では、適応障害とうつ病の判断が付きにくいときや、抗うつ薬を早めに使用したい際に「うつ状態」という診断名が使用されることがあります。「適応障害」「うつ病」「うつ状態」の診断はよく混合して使われるため、自分がいったいどのような診断をされているか分からないと感じられたときは、医師に尋ねてみて下さい。
適応障害に対する治療法とサポート

適応障害と診断された後、「これからどうやって治していくんだろう?」と不安になると思います。この章では、適応障害の治療法について解説します。
薬ではなく休養が大事
適応障害は薬だけで治る病気ではなく、ストレスの軽減や休養が最も重要になります。ストレスによって疲弊した心身を休ませることで、症状の改善を促します。
職場が原因の場合は、有給休暇などを活用し、一時的な休みを取ることを検討します。そして、上司や人事担当者に、業務内容の変更や勤務時間の調整、部署異動などを相談してもらいます。産業医が会社にいる場合は、産業医面談をお願いすることもあります。症状が重く出勤できない場合や、有給休暇を使っても症状が改善しない場合、休職も選択肢になります。休職する場合は、1〜3ヶ月程度休職することが多いです。
学校が原因の場合は、担任の先生やスクールカウンセラーに相談し、授業の負担軽減や、いじめ・不登校への対策などを検討します。
家庭環境が原因の場合は、家族と話し合い、家事の分担や役割の見直し、コミュニケーションの改善などを図ることが重要です。
いずれにせよ、適応障害では休養が治療の最も重要な部分になるので、どうしたら休養が取れるかをしっかりと話し合っていきます。
薬物療法の種類と効果
休養の他、適応障害の治療では、薬物療法が用いられる場合もあります。不安や不眠などの症状に対して、補助的に使用されます。薬を使用するかどうかは、症状の重さや、本人の希望に合わせて決めていきます。
●抗うつ薬
気分の落ち込みや意欲の低下といった抑うつ症状を改善する薬です。例えば、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などがあります。これらの薬は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの働きを調整することで、気分を安定させる効果があります。
●抗不安薬
強い不安や緊張、イライラ、焦燥感などを和らげる薬です。例えば、ベンゾジアゼピン系の薬などが用いられます。これらの薬は気持ちを落ち着かせる効果があります。ただし、長期内服により依存性や耐性が生じる可能性があるため、医師の指示に従って服用することが重要です。
●睡眠薬
適応障害では、不眠を訴える患者さんも多いです。不眠は適応障害を悪化させる原因になるため、眠れない場合は一時的に睡眠薬を使用します。睡眠薬は依存性があるからと嫌がる方もおりますが、最近は依存しにくい睡眠薬も開発されており、よく使用されています。
これらの薬は、症状に合わせて単独で使ったり、組み合わせて使ったりします。効果や副作用には個人差があるため、医師と相談の上で内服して下さい。
心理療法の種類とアプローチ
その他、心理療法、いわゆるカウンセリングも治療として取り入れられることもあります。心理療法は、自分の心の状態を理解し、ストレスへの対処能力を高めることを目的としています。主な心理療法としては、近年では認知行動療法が行われることが多いです。
●認知行動療法
物事の捉え方や考え方のパターン(認知)を変え、行動パターンを修正することで、ストレス反応を改善する治療法です。
ただし、心理療法は時間のかかる治療であるため、初期の段階ではあまり即効性はありません。また、心理療法を医師が行うことは少なく、心理士による自費でのカウンセリングで対応となることが多いです。まずは休養、環境調整が優先され、その後の再発予防に認知行動療法の要素を取り入れた診察が行われることがあります。
診断後に必要な書類・手続き

適応障害と診断された場合、症状の程度や生活への影響に応じて、以下の手続きを検討する必要があるかもしれません。
- 休職の手続き: 症状が重く、仕事を続けることが困難な場合は、医師の診断書を提出し、会社に休職を申し出ることを検討しましょう。
- 自立支援医療制度の利用: 医療費の自己負担を軽減するための制度です。一定の条件を満たす精神疾患が対象となり、医師の診断書と申請が必要です。
- 傷病手当金の手続き: 会社員や公務員の方で、病気やケガのために仕事を休まざるを得ない場合、収入の一部を補償する傷病手当金を受給することができます。
すぐもらえる?診断書の取得方法と注意点
適応障害の診断書は、医療機関で診察を受け、医師が必要と判断した場合に発行されます。診断書には、病名、症状、治療期間、就労への影響などが記載されます。
- 休職となった場合、診断書は会社での休職の手続きに必要となる場合が多いため、受診時に発行してもらえることが多いです。初診の問診票に診断書が必要かどうか事前確認があることもあるので、希望がある場合は事前に伝えておくと良いです。
- 診断書の発行には費用がかかります。医療機関によって料金は異なり、一般的には3000円から5000円程度が相場です。
- 診断書の内容については、明確なフォーマットが決まっている訳ではなく、医師の裁量で内容が決まります。診断書を発行してもらう前に、主治医とよく相談し内容を決めてもらいましょう。
自立支援医療制度と傷病手当金の活用法

適応障害と診断され、休職となった場合、治療費や生活費の不安を抱える方も少なくありません。経済的な不安は、新たなストレスの要因にもなりかねません。
自立支援医療制度と傷病手当金についても解説します。これらの制度は、経済的な負担を軽減し、治療に専念できる環境をサポートするために設けられています。
自立支援医療制度(精神通院医療)の申請条件と手順
自立支援医療制度には、「更生医療」、「精神通院医療」、「育成医療」の3種類があります。その中の「精神通院医療」は精神疾患のある方が医療機関にかかる際の自己負担額を、通常の3割負担から1割負担に軽減する制度です。医療費の負担が軽くなることで、継続的な治療を受けやすくなり、症状の改善や社会復帰を促進する効果が期待できます。
この制度を利用するためには、自立支援医療の診断書を発行してもらい、そちらを持ってお住まいの自治体に申請する必要があります。
注意点として、多くの精神科・心療内科のクリニックで自立支援医療が受けられると思いますが、全てのクリニックが対応している訳ではありません。受診時に、自立支援医療が受けられるか確認してみて下さい。
申請手順
- 医療機関で主治医に自立支援医療制度を利用したい旨を相談し、「自立支援医療診断書」も作成してもらいます。
- 住民票のある市区町村の窓口で申請書類を受け取り、診断書、保険証、印鑑、所得を証明する書類などを添えて、窓口に申請します。窓口では、制度の内容や申請に必要な書類について詳しく説明を受けることができます。
- 自治体の審査を経て、自立支援医療受給者証が交付されます。審査期間は、自治体によって異なりますが、通常1ヶ月程度です。
交付された自立支援医療受給者証を医療機関に提示することで、医療費の自己負担が1割になります。自立支援医療受給者証が届くまでの間は3割負担になりますが、後日医療機関や市役所に申請することで申請日から遡って返金してもらえます。
傷病手当金の支給条件と申請手順
傷病手当金は、病気やケガで働けなくなった場合に、生活費をサポートしてくれる制度です。会社員や公務員が加入する健康保険から支給されます。病気のために収入が途絶えてしまう不安を軽減し、安心して治療に専念できるよう支援することを目的としています。受給できる期間は最長1年6ヶ月で、働いていた過去1年間の平均給与の3分の2程度のお金が支給されます。
支給される条件
傷病手当金は、次の4つの条件をすべて満たしたときに支給されます。
- 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業である。
- 仕事に就くことができない。
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかった。
- 休業した期間について給与の支払いがない。
療養中で、働くことができないこと。医師の診断に基づき、就労が困難な状態であることが条件となります。
申請手順
- 会社、または加入している健康保険のサイトから、「傷病手当金支給申請書」を手に入れます。
- 医療機関で医師に「傷病手当金意見書」を作成してもらいます。
- 必要事項を記入した申請書と意見書を会社に提出します。会社によっては、他に必要な書類がある場合もあるため、事前に確認しておきましょう。
- 会社が健康保険組合に申請書類を提出します。
- 健康保険組合の審査を経て、傷病手当金が支給されます。審査期間は、健康保険組合によって異なりますが、通常2週間〜1ヶ月程度で支給されます。
傷病手当金の診断書には、定期的な通院歴の記載が必要となるため、通院は中断することなく続けて下さい。休職中は1〜2週間に1度の程度で受診を求められることが多く、通院を中断した場合、中断期間の診断書の発行を断られることもあります。また、通院中に病院を変更した場合、変更前の期間に関しては通院していた病院での記載を求められることになるので、事情があり通院を変更する場合は診断書をどうするかなど事前に話し合っておくことをおすすめします。
休職中の過ごし方と注意点

適応障害と診断され休職になった場合、どのように過ごせばよいか、不安や戸惑いを感じるかと思います。ここで紹介する過ごし方や注意点などを参考に、主治医とよく相談されて下さい。
まずは何よりも睡眠を取ること
休職中は、まずは何よりも睡眠をしっかりと取ることを意識しましょう。眠れないことは最も体に負荷がかかります。特に、休み始めの頃は就寝前に今後のことを色々と考えてしまい眠れないことがよくあります。眠れない場合は医師に相談し、睡眠薬を使用してでもしっかりと寝ましょう。疲れた心と体の健康を取り戻すことが大事です。
仕事のことは極力考えない
休職中は仕事のことはできるだけ考えないようにします。休職中に、職場やクライアントから連絡が来て、再度体調が悪化するということがよくあります。職場の連絡は人事や保健師、産業医など、窓口を1つ決めて、その方とのやり取りのみに抑えてもらうようにお願いしましょう。
また、退職や転職などを考えていたとしても、休職の始めの時期に人生の大きな転機となる決断は避けるようにしましょう。心身の不調がある状態で大きな決断をすると、後で後悔することがあります。人は追い詰められているときは冷静な判断ができなくなります。休養で体調を取り戻した後に、時間をかけて落ち着いて判断しましょう。
運動や趣味など、出来ることを増やしていく
最初は家でゆっくり休むのが良いですが、少しずつ散歩やヨガなど、軽い運動を定期的に行うことが良いです。 外に出て日光を浴びること、適度な運動をすることはストレスホルモンの分泌を抑制し、気分を安定させる効果があります。
また、休養期間中は好きなことに時間を使い、気分転換を図りましょう。休職中だから楽しんではいけないということはありません。逆に、読書や映画鑑賞、音楽鑑賞など、自分が楽しめる活動に取り組めることは、回復の兆候でもあります。今までできなかった趣味ややりたいことをやるのもいいでしょう。出来ることを少しずつ増やしていって下さい。
元気になって来たら、規則正しい生活リズムを意識する
眠ることができて少しずつ元気になってきたら、毎日同じ時間に起床・就寝をして、規則正しい生活習慣を意識しましょう。昼夜逆転の生活や、昼まで寝ている生活を続けているとなかなか調子が良くなりません。心の安定は、生活習慣の安定と密接に関係しています。普段の休みとは違うことを意識して、生活習慣には気をつけましょう。
休職中のNG行動
休職中に旅行や遠出をすることは、それが出来るくらい元気になってきたという証拠であり、特に問題はありません。元気になってきたときは、積極的に活動をしていくのも大事になります。ただし、元気になって来たからといって、アルバイトなど何か別の仕事をしたり、仕事に近いような作業を行うことはNGです。
たまに、休職期間中に家族や友達の仕事を少し手伝っているという方や、家族の介護をしているという方がいますが、それでは休養になりませんし、別の仕事をすることは制度的にも問題になります。周囲になかなか理解がなく断れないということであれば、受診に同行してもらうなどして、主治医から休養の必要性の話をしてもらった方が良いでしょう。休職中は心と体を回復させる期間であるということは忘れないで下さい。
復職に向けた準備と具体的なステップ

心と体の状態が安定してきたら、徐々に復職に向けて準備を始める時期になります。
就業時間を意識した生活を送る
元気に活動が出来るようになってきたら、就業時間に合わせて朝に図書館やカフェに行って、1日過ごせるか確認していきましょう。読書や動画を見て時間を過ごし、1日を外で過ごすことに慣らしていきます。ここで1日体力が持たなかったり、集中力が無く読書もできないとなると、仕事に復帰するのはまだ早い段階です。
1日過ごせることが確認できたら、内容を仕事に近い勉強や、もう少し負荷の高い行動にしていきましょう。その状態で過ごせるようであれば、復職は近いです。
職場との連絡を続ける
休職中は定期的に職場と連絡を取り合い、現在の状況や復職に向けた進捗状況を報告し相談しましょう。復職に向けて、配置転換や業務内容の変更など、会社とのすり合わせの話もこの時点で出てくることもあります。
職場に産業医がいる場合は、産業医面談があります。最終的な復帰の判断は、主治医だけでなく、産業医の意見も必要になってきます。そのため、産業医との面談においても、復職に向けて、どのような状況であれば復帰ができそうか話をしておきましょう。産業医は職場の状況を見ながら、復職に関して判断していきます。
職場に産業医がいない場合の注意点
従業員が50人以下の職場であれば産業医がいません。産業医がいない場合は、主治医に産業医的なアドバイスをもらう必要があります。ただし、どうしても会社の状況を直接知らない主治医が職場環境調整に大きく関与するのは難しい部分もあります。業務軽減や部署異動など、職場環境を変えるための会社とのやり取りは自分で行う必要が出てくるので、どのような話を会社としていけば良いかも診察中に話し合っておくのをおすすめします。
リハビリ出勤、復職訓練制度
会社によってはリハビリ出勤や復職訓練の制度がある所もあります。リハビリ出勤や復職訓練では、休養を続けながら試し出勤をして、会社で仕事以外の作業をしながら時間を過ごして復帰に向けて体を慣らしていきます。大きな会社や、公務員などでは制度があることが多いです。開始するには主治医からの許可を貰う必要があります。 あくまで休職中の扱いにはなるため、無理はしないようにしましょう。
リハビリ出勤や復職訓練の制度がない会社では、いきなり仕事という形になりますが、時短勤務や週3勤務などの対応をする会社もあります。このあたりの対応は会社によって異なります。特に、小規模の会社や事業所では明確に制度が決まっていないため、その場の状況で臨機応変に対応となることが多いです。ただし、最近の流れとしては、原則週5日フルタイムで復帰できる体調に回復するまでは、復帰ではなく休養に務めるよう言われることも多くなってきているので、会社の方針は確認しておきましょう。
いよいよ復職
朝起きて1日活動が出来ること、復帰にあたり職場環境の調整が行えていること、こちらの条件が満たせている場合、復職許可が出ることが多いです。主治医から復職許可の診断書をもらい、会社と復職日を相談して復職します。
職場復帰後の過ごし方、注意点

職場復帰後は、以下の点に注意しながら、徐々に仕事に慣れていきましょう。
無理をしない
復帰直後は、以前と同じように仕事ができなくても焦る必要はありません。 無理せず、自分のペースで仕事を進め、徐々に負荷を上げていきましょう。 疲れた時は、休憩を取るなど、ご自身の体調管理を最優先に考えて行動しましょう。
休息をしっかりとる
十分な睡眠時間を確保し、心身を休ませる時間を大切にしましょう。 睡眠不足は、心身の疲労を蓄積させ、再発のリスクを高めます。 休日は、趣味やリラックスできる活動に時間を使い、心身のリフレッシュを図りましょう。
相談する
困ったことや不安なことがあれば、一人で抱え込まず、上司や同僚、主治医などに相談しましょう。 職場環境の調整や業務内容の見直しなど、相談することで解決できることもあります。 また、家族や友人など、信頼できる人に話を聞いてもらうだけでも、気持ちが楽になることがあります。
定期的な通院
定期的に主治医の診察を受け、経過観察を行いましょう。 症状の再発を防ぐためには、継続的な治療とサポートが不可欠です。 主治医と相談しながら、薬の調整や心理療法の継続などを検討しましょう。
職場に復帰できなかった場合

適応障害で休職後、職場環境調整が上手く行かないと、復職できなかったり、復職しても再度症状が再発し休職になったりすることもあります。環境調整が上手く行かない理由には、部署異動が難しい職場だったり、業務調整の余裕がない職場だったりと会社側に要因があることもあれば、そもそも仕事内容・業種が向いていなかったなど休職者側の要因があることもあります。
様々な努力をしても職場環境が改善しない場合は、転職を検討する必要があるかもしれません。ただし、転職は焦らずに周りの人に相談しながらじっくりと検討しましょう。焦って転職先を決めてしまうと、転職先で再び適応障害を発症するリスクもあるため、慎重に進めることが重要です。
適応障害から得られること

適応障害は、つらい経験ではありますが、自分自身を見つめ直し、より良い人生を送るための転機となる可能性を秘めています。適応障害になったことで、気づいていなかった自分の問題点や、本当に人生で大切にすべきだったことに気づくことがあります。今の仕事や環境が本当に自分に合っているか、冷静に見つめ直し、キャリアの方向転換のきっかけになることもあります。
病気は、人生に気づきをもたらしてくれます。適応障害になったことは、自分の人生にとってどのような意味があるのだろうか、自分に何を訴えかけてきているのか、という視点でぜひ考えてみて下さい。そこで何かを得ることができれば、その後に続く人生をより良いものに変えていくことが出来ると思います。
まとめ
適応障害は、ストレスが原因で心身に症状が現れる身近な病気です。適切な対処法を学ぶことで、症状の改善、そして社会復帰が期待できます。この記事では、適応障害の診断基準や症状、治療法、休職時の手続き、そして復職後の注意点まで、詳しく解説しました。
適応障害と診断された場合、主治医と相談し、休職含め自分に合った治療法を選びましょう。薬物療法や心理療法など、補助的な治療法もあります。経済的な不安がある場合は、傷病手当金や自立支援医療制度の活用も検討してみましょう。休職中は、規則正しい生活を心がけ、心身の回復に努めましょう。復職する際には、職場とよく相談し、無理なく段階的に仕事に慣れていくことが重要です。
適応障害を乗り越えることで、自分自身について深く理解し、より自分らしい生き方を見つけられるかもしれません。 一人で抱え込まず、医療機関を受診し、専門家のサポートを受けながら、治療を進めていきましょう。
(監修・執筆:中村拓也)
参考文献
1. 日本精神神経学会監修, DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル, 医学書院, 東京, 2014
2. 平野奈津子: 適応障害の診断と治療, 精神神経学雑誌 120(6);514-520, 2018
3. 厚生労働省, 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き
心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き
4. 厚生労働省, 職場における心の健康づくり〜労働者の心の健康の保持増進のための指針〜
職場における心の健康づくり
※画像はイメージです
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。