【医師監修】人工透析と仕事は両立できる?夜間透析や疲労対策も徹底解説

2025/03/13 11:03公開

「透析になったら仕事は続けられるの?」

そんな不安を抱えていませんか? 実際、透析は生活に大きな変化をもたらす治療法ですが、仕事を続けながら透析を行うことは可能です。

血液透析と腹膜透析、それぞれの特徴を理解し、日中・夜間透析、在宅透析など、自分のライフスタイルや希望に合った働き方を選択することで、仕事と治療の両立を実現できるのです。過去の研究でも、就労継続を支援するシステムが患者の労働能力向上に繋がることが示唆されています。

この記事では、透析の種類、働き方の選択肢、そして仕事と透析を両立するための秘訣を、具体的な例を交えながら日本腎臓学会専門医・指導医の著者が徹底解説します。 経済的な不安の解消方法や充実した透析生活を送るためのサポート体制についてもご紹介しますので、ぜひご一読ください。

この記事の監修者

透析の種類と働き方の選択肢

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「透析」と聞くと、生活が一変してしまうような不安を抱かれる方もいるかもしれません。特に、仕事を続けられるかどうかは大きな心配事でしょう。

しかし、ご安心ください。透析の種類や働き方にはいくつかの選択肢があり、自分の状況や希望に合わせて選ぶことができます。この章では、透析の種類と働き方の選択肢について具体的に解説していきます。

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血液透析と腹膜透析の違い

透析には、大きく分けて「血液透析」と「腹膜透析」の2種類があります。それぞれの特徴を理解し、自分に合った方法を選択することが大切です。

血液透析は、血液を体外に取り出して人工腎臓(ダイアライザー)で老廃物や余分な水分を除去し、再び体内に戻す方法です。週に3回程度、1回あたり4~5時間、通院する必要があります。血液透析を行うには、腕にシャントと呼ばれる血管の手術が必要です。このシャントは、血液をスムーズに取り出したり戻したりするための特別な通り道です。

一方、腹膜透析はお腹の中にカテーテルという細い管を挿入し、そこから透析液を注入して老廃物や余分な水分を腹膜を通して取り除く方法です。腹膜はお腹の中にある臓器を包んでいる薄い膜で、この膜を通して老廃物などを体外へ排出します。透析液の交換は1日に3~5回、自宅や職場で行うことができます。通院の必要がないため、時間の融通が利きやすいというメリットがあります。

ただし、腹膜の状態によっては実施できない場合もあります。また、腹膜透析は、自分でカテーテルの管理や透析液の交換を行う必要があるため、ある程度の自己管理能力が求められます。

血液透析の働き方:日中・夜間

血液透析は一般的に日中に病院やクリニックで行われますが、夜間に行うことも可能です。日中の透析は仕事との両立が難しい場合もありますが、夜間透析であれば仕事が終わった後の時間を使って行うことができます。夜間透析には寝ている間に透析を行う「オーバーナイト透析」を選択できる施設もあります。

末期腎疾患患者における血液透析中の労働能力関連因子の影響を調査した過去の研究でも、夜間透析のような就労継続を支援するシステムが、患者の労働能力向上に繋がることが示唆されています。

●      日中透析: 一般的な勤務時間内に通院。仕事との両立に工夫が必要な場合もあります。

●      夜間透析: 一般的な退勤時間後の夕方ごろから夜にかけて透析を実施。時間に余裕が生まれ、生活リズムを整えやすいというメリットがあります。

●      オーバーナイト透析:夜間透析の中でも深夜帯に行う血液透析で、寝ている間に透析が可能です。

在宅血液透析の働き方:自宅でできる治療

在宅血液透析(HHD:Home Hemodialysis)とは、病院やクリニックに通うのではなく、在宅で透析治療を行う方法です。仕組み自体は一般的な血液透析と同じく、患者の血液を体外に取り出し、人工腎臓(ダイアライザー)を通して老廃物や余分な水分を除去し、電解質やpHのバランスを整えたうえで体内に戻します。

在宅血液透析の最大のメリットは、自分のライフスタイルに合わせて柔軟に透析スケジュールを組める点です。日中の仕事の時間を確保したい人や、在宅ワーク・リモートワークを続けたい人に向いているでしょう。

また、医療機関に通い透析する場合は多くて2日に1回程度ですが、在宅血液透析なら毎日行うことができるので、腎臓本来の働きにより近い形で透析を行えます。

一方で、穿刺や機器操作は自分で行わなければならず、介助者も必要です。機械を設置できる専用スペースを準備することに加えて、初期費用や維持費(水道代・電気代)がかかる点は把握しておきましょう。

腹膜透析の働き方:自宅や職場での実施

腹膜透析は、自宅や職場で行うことができるため時間の融通が利きやすく、仕事との両立もしやすい透析方法です。自宅や職場で行う場合は、清潔な環境を確保し、決められた手順に従って正しく行うことが重要です。感染症予防のためにも、衛生管理には細心の注意を払いましょう。

透析導入前に知っておくべき準備

透析導入前に準備しておくと、治療開始後の生活がスムーズになります。透析導入は、新たな生活のスタート地点です。

まず、血液透析か腹膜透析か、自分のライフスタイルや価値観に合った透析の種類を選択し、医療機関を選定します。経済的な準備として、医療費や生活費について確認し、仕事との両立のための計画を立てましょう。家族や周囲に透析治療について説明し、協力を得られ

るようにしておきましょう。

また、生活習慣の見直しも大切です。食生活や睡眠時間を調整し、規則正しい生活を送るように心がけましょう。塩分やカリウムの摂取制限など、食事療法が必要になる場合もあります。治療開始前に、不安なことは医師や看護師に相談し、疑問を解消しておくことが大切です。

透析と仕事の両立を成功させるためのポイント

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透析を受けながら仕事を続けることは、容易ではありません。治療のための通院、日々の体調管理、将来への不安など、様々な課題に直面するでしょう。しかし、多くの透析患者が工夫を凝らしながら仕事を続けているのも事実です。

ここでは、透析と仕事を両立するためのポイントを具体例を挙げつつ解説します。きっと、あなたの状況に合った働き方が見つかるはずです。

職場への理解と協力の得方

透析と仕事を両立するには、職場の上司や同僚の理解と協力が不可欠です。伝えるのは勇気がいるかもしれませんが、包み隠さず話すことが大切です。

●      何を伝えるか

○      透析の頻度・時間(例:週3回、午後4時間)

○      体調の変化(疲れやすい、残業が難しい)

○      必要な配慮(通院時間の確保、急な体調不良の可能性)

●      誰に伝えるか

○      まず直属の上司に相談

○      必要に応じて人事部・産業医へ

○      同僚には状況に応じて判断

●      どのように伝えるか

○      面談が理想、資料を用意するとスムーズ

○      口頭が難しければ手紙やメールも可

オープンに伝えることで、周囲の理解と協力を得やすくなり、安心して仕事に集中できる環境が整います。適切な伝え方がわからない、と悩んだ場合は主治医や通院中のクリニックに相談してみましょう。

透析に適した仕事とは?

透析を受けながら働く場合、身体への負担が少ない仕事を選ぶことが重要です。

●      デスクワーク: 事務作業やデータ入力などは、体力的な負担が少ないため、透析患者にも適しています。

●      在宅ワーク: Webデザイナーやライターなど、在宅でできる仕事は通院の負担を軽減でき、自分のペースで仕事を進められるメリットがあります。

●      時間的融通がきく仕事: シフト制の仕事であれば、透析のスケジュールに合わせて勤務時間を調整できます。

●      理解のある職場: 透析治療への理解があり、柔軟な勤務体制が整っている職場は、安心して働き続けられるでしょう。

過去の研究では、透析患者の約4割が就労中ですが、透析導入前後に失業するケースも少なくありません。透析を続けられるような無理のない働き方を選ぶことが大切です。

もちろん、これらはあくまで一例です。あなたの経験、スキル、興味を活かせる仕事を見つけることが大切です。

疲労対策と体調管理の秘訣

透析治療中は、疲れやすさや体調の変化を感じることがあります。体調管理を徹底することで、仕事のパフォーマンスを維持し、より快適な生活を送れるでしょう。

●      十分な睡眠: 毎日同じ時間に寝起きし、質の高い睡眠を十分に確保しましょう。

●      食事管理: 血液透析、腹膜透析ではそれぞれで気を付ける食事の内容が異なります。それぞれのフェーズにあわせて食事療法をしていきましょう。

●      適度な運動: 体調に合わせて、無理のない範囲でウォーキングやストレッチなどの軽い運動を行いましょう。

●      ストレス軽減: 趣味を楽しんだり、リラックスできる時間を作ったりして、ストレスをため込まないようにしましょう。

●      定期的な検査: 定期的に血液検査などを受け、体調の変化を早期に発見しましょう。

就労支援制度の活用方法

透析を受けながら仕事を探す、あるいは仕事を続ける上で、様々な就労支援制度を活用できます。

●      ハローワーク: 職業紹介や相談、職業訓練といったサービスを提供しています。

●      障害者就労・生活支援センター: 就職相談、職場定着支援、生活相談など、多岐にわたるサービスを提供しています。

●      就労移行支援事業所: 就職に必要な知識やスキルを習得するための訓練や職場実習などを提供しています。

これらの制度を積極的に活用することで、自分に合った仕事を見つけ、安心して働ける可能性が高まります。

収入や経済的な不安の解消方法

透析治療には費用がかかり、収入への影響が懸念されるかもしれません。経済的な不安を解消するために、活用できる制度があります。

●      高額療養費制度: 医療費の自己負担額が高額になった場合、一定額を超える分が支給される制度です。

●      障害年金: 障害の程度に応じて支給される年金です。

●      傷病手当金: 病気やケガで会社を休む場合、給与の代わりに支給される手当金です。

これらの制度を組み合わせることで、経済的な負担を軽減できます。また、医療ソーシャルワーカーに相談することで、自分に合った制度の活用方法を知ることができます。

透析と仕事の両立は決して簡単ではありませんが、諦めずに様々な工夫とサポートを活用することで、充実した生活を送ることが可能です。

透析生活を支える制度とサポート

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透析を始めるとどうしても生活に大きな変化が生じます。 経済的な不安、仕事との両立、日々の生活の送り方など、頭を抱えるような課題に直面するかもしれません。慣れない治療や生活の変化に戸惑い、気持ちが沈んでしまうのも無理はないでしょう。

しかし、透析生活を支えるための制度やサポートはたくさんあります。 これらの制度をうまく活用し、周囲の協力を得ながら、自分らしい生活を送りましょう。 暗闇の中を歩くような不安な気持ちを抱えずに済むよう、具体的なサポート体制についてご説明します。

患者会や支援団体との繋がり

患者会や支援団体は、同じ病気を持つ仲間と繋がり、情報交換や悩み相談ができる貴重な場です。

患者会では、透析に関する最新の治療法や生活上の工夫、仕事との両立のヒントなどを共有できます。 例えば、食事療法のレシピを交換したり、通院しやすい病院の情報を得たり、実際に透析と仕事を両立させている人の体験談を聞いたりすることもできます。

また、他の患者の体験談を聞くことで、不安や孤独感を軽減する効果も期待できます。 一人で抱え込まずに、誰かと気持ちを共有することで、前向きな気持ちを取り戻せるかもしれません。

これらの団体は、患者の社会参加を促進し、精神的な支えとなるだけでなく、時には行政への働きかけなどを通して、患者の権利を守る役割も担っています。 自分と同じように透析と向き合っている仲間と繋がることで、新たな発見や勇気が得られるはずです。

介護保険や障害年金などの社会保障制度

透析治療中は、さまざまな社会保障制度を利用できます。

経済的な負担を軽減するための制度として、障害年金があります。 障害年金は、病気やケガによって日常生活や仕事に支障がある場合に支給される制度です。 透析治療中は、身体的な負担が大きいため、障害年金の受給対象となる可能性があります。

家族や周囲のサポートの重要性

透析生活を送る上で、家族や周囲のサポートは欠かせません。 家族は、患者の精神的な支えとなるだけでなく、通院の付き添いや食事の管理、生活のサポートなど、さまざまな面で患者を支えることができます。

また、職場の上司や同僚の理解と協力も重要です。 仕事と透析の両立には、職場の理解と協力が不可欠です。 例えば、勤務時間の調整や休憩時間の確保、通院のための休暇取得など、職場環境の整備が重要になります。 職場の上司や同僚に透析治療についてきちんと説明し、理解と協力を得られるように努めましょう。 先ほど提示した研究でも、透析患者の就労継続には、周囲の理解と協力が不可欠であることが示唆されています。

最新の透析技術と治療の選択肢

透析技術は常に進化しており、患者の負担を軽減するためのさまざまな治療法が開発されています。 例えば、在宅透析は自宅で透析を行うことができるため、通院の負担を軽減し、より自由な時間を確保できます。

また、長時間透析は、夜間などに長時間かけて透析を行うことで、身体への負担を軽減し、より安定した透析治療を実現します。 これらの最新の透析技術や治療法を選択することで、より快適な透析生活を送ることが可能になります。

過去の研究では、貧血や障害などの状態が労働能力に影響を与えることが示唆されています。より良い治療の選択肢を探ることは、生活の質の維持・向上に繋がるでしょう。

メンタルヘルスとQOL(生活の質)の維持

透析治療中は、身体的な負担だけでなく、精神的な負担も大きくなります。 そのため、メンタルヘルスの維持は非常に重要です。 ストレスを軽減するためには、リラックスできる時間を作る、趣味を楽しむ、友人や家族と過ごすなど、自分なりの方法を見つけることが大切です。 まだ施設は限られますが、旅行先でも透析ができる「旅行透析」を実施しているところもあります。

また、必要に応じて、精神科医やカウンセラーに相談することも有効です。 専門家のサポートを受けることで、心のバランスを取り戻し、前向きな気持ちで治療に取り組むことができるでしょう。

透析治療を受けていても、QOL(生活の質)を維持・向上させることは可能です。 前向きな気持ちで治療に取り組み、自分らしい生活を送るように心がけましょう。

まとめ

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人工透析を行いながら仕事との両立を図ることは不可能ではありません。透析には血液透析と腹膜透析があり、それぞれに特徴や働き方の選択肢があります。職場への理解と協力を得ながら、自分の状況に適した仕事や働き方を見つけることが重要です。

透析は生活に大きな変化をもたらしますが、最新の透析技術や国の支援制度などもあり、QOLを保って働くための多くの選択肢と支援策があります。

この記事が、透析と仕事の両立、そして充実した透析生活を送るための一助となれば幸いです。

(監修・執筆:天野 方一)



参考文献

  1. The effect of workability-related factors in patients with end-stage kidney disease undergoing hemodialysis.


追加情報

The effect of workability-related factors in patients with end-stage kidney disease undergoing hemodialysis.,

血液透析を受けている末期腎不全患者の労働能力に影響を与える因子

【要約】

●      末期腎不全(ESKD)患者における就労状況と労働能力関連因子の関連性を調査したイランでの研究。

●      血液透析を受けているESKD患者191人を対象に、人口統計学的データ、職業データ、臨床的特徴、検査所見、労働能力指数(WAI)を用いた調査を実施。

●      血液透析患者の37.7%が就労中であり、就労していない患者のうち45.4%は透析開始前に、54.6%は透析開始後に失業していた。

●      WAIスコアが低い患者は、高齢、非識字、低い仕事満足度、高い欠勤率、失業、高率の障害、転職歴なしといった特徴を示した(全てP<0.05)。

●      現在の失業状態、転職歴、赤血球濃厚液輸血が、血液透析患者の労働能力の予測因子であった(P<0.001, P=0.046, P=0.046)。

●      高齢、低学歴、障害、貧血は、労働能力の低下リスクを高める因子であることが示唆された。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39696060


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