心因性発熱(しんいんせいはつねつ)は、主にストレスによって起こる発熱です。「大人の知恵熱」とも呼ばれています。発熱はするものの、細菌やウイルスが原因になっているわけではありません。
とはいえ、症状が何日続くのか、どうすれば熱を下げられるのか気になっている方が多いでしょう。本記事では、心因性発熱の原因や症状の特徴、熱の下げ方などについて詳しく解説します。
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心因性発熱とは
心因性発熱は、風邪とはまったく違うメカニズムで発症するものです。大人が心因性発熱を発症した場合は、「大人の知恵熱」と呼ばれることもあります。まずは、心因性発熱がどのようなものなのか、詳細について見ていきましょう。
臨床的には「機能性高体温症」と呼ばれる
心因性発熱という呼び方は1900年代から存在していますが、実は正式な病名ではありません。臨床的には「機能性高体温症(きのうせいこうたいおんしょう)」と呼ばれています。
心因性発熱と呼ばれるようになった当初は、風邪を引いたときの発熱メカニズムとどのような違いがあるのかについて詳しくは分かっていませんでした。現在は、風邪とは大きく異なるメカニズムで発熱することが分かっています。
心因性発熱はストレス性ですが、風邪による発熱は炎症性です。心因性発熱と風邪による発熱にはメカニズムの違いがあるため、熱の下げ方も異なることに注意が必要です。
心身症専門外来の2~5%を心因性発熱が占める
心身症を専門的に診る診療科に、心身症専門外来と呼ばれるものがあります。心身症とは、ストレスの影響で発症する障害の総称です。心因性発熱は代表的な心身症として知られており、「心身症専門外来を受診する患者さんの約2~5%を心因性発熱が占めている」といわれています。
また、原因不明の微熱患者のうち、約48%は心因性発熱であるともいわれています。このことから、心因性発熱は決して珍しい病気ではないといえるでしょう。
ただし、発熱はさまざまな病気が原因で起こるものです。心因性発熱や風邪以外では、感染性胃腸炎や虫垂炎、腎盂腎炎や髄膜炎、膠原病などが発熱の原因として挙げられます。発熱した際は心因性発熱だと自己判断せず、医師の診察を受けて適切な治療を受けることが大切です。
10代や若年成人に多い傾向だが大人でも発症
心因性発熱を発症するのは、10代や若年成人に多い傾向にあります。特に顕著な高体温を示す例は、10代の小児に多いことが特徴です。しかし、小児の場合は症状をうまく伝えることができない他、ストレスを受けているという自覚に乏しいため、心因性発熱の診断をスムーズに受けられないケースが珍しくありません。
なお、心因性発熱は大人でも発症することがあります。大人の場合は、37~38度程度の微熱が持続しやすい傾向にあり、小児の心因性発熱とはまた違った特徴を示します。小児は一過性の高体温を生じることが多いです。
心因性発熱の発症ピークは13歳です。男女比を見ると、やや女性のほうが多いことが分かっています。10代で久留米大学病院の小児科を不明熱で受診した7例のうち、4例が心因性発熱でした。このことから、10代の小児で不明熱が続く場合は心因性発熱を疑う例が多いことが分かります。
心因性発熱の原因
心因性発熱の主な原因はストレスです。しかし、ストレスといってもさまざまな種類があります。ここでは、子どもと大人に分けてストレスの種類について見ていきましょう。
子どものストレスの種類
一見すると子どもはストレスを抱えていないように思えるかもしれません。しかし、子どもはストレスを受けていることをうまく言語化できないことが多いため、大人が気が付かないうちにストレスを抱え込んでいないか注意する必要があります。子どもがストレスを感じる原因としては、以下のものが代表的です。
● 入園や入学
● 転校
● 兄弟の誕生
● 家族の病気
● 家庭内暴力
● 習い事
● 友だちや先生との関係
大人から見ると、大きなストレスにはならないだろうと思えるものもあるでしょう。しかし、子どもにとっては大きな環境の変化と感じる場合があります。
次のようなサインは、ストレスを受けているときに見られやすいものです。
● 寝付きが悪くなる
● 普段より睡眠時間が長くなる
● 風邪を引きやすくなる
● 普段よりスキンシップを求めてくる
● 落ち着きがなくなる
大人のストレスの種類
子どもと比べて大人は「ストレスを感じている」と自覚しやすい傾向にあるため、対策を練りやすいかもしれません。ストレスの原因としては、主に次のようなものが挙げられます。
● 多忙
● 夜勤
● 残業
● 昇進
● 就職
● 転職
● 解雇
● 引っ越し
● 睡眠不足
● 疲労
● 人間関係
社会人の場合は、仕事関係のストレスを受けやすい傾向にあります。夜勤や残業の他、昇進によるプレッシャーも代表的なストレスの一つです。
上記の他に、借金や病気、不規則な生活などもストレスとなる場合があります。以下のようなサインが出ている場合は、ストレスを受けている可能性が高いかもしれません。
● 集中力が低下している
● イライラしやすい
● 抑うつ状態にある
● 頭痛や腰痛が続く
● 動悸や息切れがする
● 飲酒や喫煙が増える
● 仕事でミスが増える
● なかなか寝付けない(眠りが浅くすぐ目が覚める)
何日続く?心因性発熱の症状や特徴
心因性発熱は、一概に何日続くとは言えません。人によって症状の出方や熱が続く日数が異なります。心因性発熱のタイプは、主に2つです。急に発熱するタイプと、微熱が長く続くタイプがあります。それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。
急に高熱が出るケース
急に39度を超えるような高熱が出るタイプがあります。高熱が出る場合は、一過性のことが多いでしょう。大事な用事がある当日に高熱を出したものの、用事が中止になったと分かった途端にすぐ熱が下がったというような例がよく見られます。
急激に体温が上昇するものの、回復も早いことが特徴です。急に高熱が出るケースは小児でよく見られます。
ただし、根本的なストレスを取り除かない限り何度も発熱を繰り返すことがあるので注意が必要です。一過性であることが多いものの、すぐに熱が下がるからといって軽視しないようにしましょう。
微熱が長く続くケース
微熱がだらだらと長く続くケースもあります。37~38度前後の微熱が続くもので、成人に多いタイプです。過労や介護など、慢性的なストレスにさらされている働き盛りの方でよく見られます。
微熱が長く続くタイプの心因性発熱では、発熱以外に頭痛や倦怠感などの症状を伴うこともあるため気をつけましょう。風邪を引いたと勘違いし、市販の風邪薬を購入して対処しようとする方もいるかもしれません。
しかし、心因性発熱は風邪とは異なるメカニズムで発症するものです。風邪薬を服用しても顕著な効果は見られません。心因性発熱はストレスを取り除くことで症状が改善します。しかし、微熱が続くタイプでは、ストレスを取り除いた後でも症状がしばらく続く場合があります。
心因性発熱の診断方法
心因性発熱かどうかを診断するためには、以下に挙げる3つの方法で診断することが重要だといわれています。
● 除外診断
● 積極診断
● 治療的診断
除外診断とは、心因性発熱以外の原因が隠れていないかを確認し、他の原因を取り除くことです。発熱する原因疾患をもっていないか、熱がないのに発熱しているかのように見せる詐熱ではないかを主に確認します。
積極診断とは、原因となるストレスがあるかなどを調べるものです。発熱する前にストレスにさらされる状況にあったか、また解熱剤を使用しても熱が下がらない状態にあるかなどを確認します。
治療的診断とは、実際に治療を行うことで高体温の状態が改善するかを確認するものです。ストレスから解放したり、適切な薬を服用したりすることで高体温が低下するかをチェックします。この他、以下のポイントも評価して心因性発熱かどうかを総合的に診断することが一般的です。
● 医療者が患者の皮膚を触り、高体温であることを認める
● 炎症反応による高体温ではない
● 血液培養が陰性である
炎症反応による高体温かどうかを判断するためには、CRPの確認を行います。CRPとは炎症が起きていたり細胞が破壊されていたりするときに上昇する物質です。いつ測定してもCRPが基準値を超えている場合は、炎症が持続的に起こっていると考えます。
発熱の他に全身倦怠感や体重減少、食欲低下や活動性低下が見られる場合も炎症が起きている可能性が高いでしょう。
風邪の治し方と違う?解熱剤が効かない理由
心因性発熱の場合は、解熱剤を服用しても熱が下がりません。風邪が原因で発熱している場合は、解熱剤を服用すると熱が下がります。
いったいなぜ心因性発熱では解熱剤が効かないのでしょうか。発熱のメカニズムを確認しながら解熱剤が効かない理由について解説します。
風邪による発熱のメカニズム
風邪を引いたときに発熱するのは、体内で炎症反応が起こるためです。細菌やウイルスが体に侵入すると、まず免疫反応に関与しているマクロファージなどの細胞から炎症を引き起こす物質が放出されます。
炎症物質が脳血管内皮細胞に働きかけるとプロスタグランジンE2が産生され、これによって身体が発熱します。解熱剤にはこのプロスタグランジンE2の産生を抑える働きがあるため、熱を下げることができます。
ストレスによる発熱のメカニズム
ストレスが原因で発熱する場合は、風邪を引いたときと異なりプロスタグランジンE2を産生しません。細菌やウイルスとは無関係に発熱するため、免疫細胞が活性化されず炎症反応が起こらないのです。そのため、解熱剤を服用しても熱が下がりません。
心因性発熱は、主に交感神経の働きが活発になり褐色脂肪細胞が熱を生み出すことで起こると考えられています。プロスタグランジンE2とは関係なく発熱するため、解熱剤の服用以外の方法で治療を行う必要があります。
心因性発熱の下げ方、治療方法
心因性発熱は解熱剤を服用しても効果がありません。では、どのように治療を行うのでしょうか。心因性発熱の治療法は主に2種類あります。
ストレスの解消や緩和
心因性発熱の原因はストレスです。そのため、まずはストレスを解消したり緩和したりする必要があります。その人にとって何がストレスになっているのかを明確にし、解決策を考えましょう。必要に応じて心理療法や認知行動療法、自律訓練法なども行います。
漢方薬や抗不安薬の内服
心因性発熱には解熱剤が無効なため、漢方薬や抗不安薬を使って薬物治療を行うことが一般的です。漢方薬は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)がよく使われます。補中益気湯は体を動かすために必要なエネルギーである気を増やし、巡りを良くする薬です。抗不安薬としては、タンドスピロンクエン酸塩などが用いられます。
タンドスピロンクエン酸は、セロトニン受容体に結合してセロトニンの活動を抑え、不安を抑える薬です。セロトニンは不足すると良くないというイメージがありますが、働きが亢進しすぎてもバランスが乱れて不安や抑うつなどの症状が出てしまいます。そのため、亢進しているセロトニンの働きを抑えることが不安を取り除くことにつながるわけです。セロトニン受容体に働きかけることで、体温を低下させる効果も発揮すると考えられています。
日常生活でできること
心因性発熱は、日常生活の過ごし方を変えるだけでも予防や改善ができます。
睡眠時間の確保
ストレスを溜め込まないようにするためには、睡眠時間をしっかり確保することが大切です。睡眠を取って体を休ませます。そうすることで、アクセルを踏み込み過ぎた体にブレーキをかけられます。どこかでブレーキをかけなければ、高体温の状態が長く続いてしまうことがあります。
生活リズムを整える
生活リズムを整えるのも心因性発熱の対策に効果的です。人の体は、起床直後に体温が低くなるようにできています。起きた時点で体温が37度を超えている場合は、睡眠と覚醒のリズムが崩れているかもしれません。
寝る直前に食事をしない、日中は外に出て太陽光を浴びるなどの工夫をして、リズムを整えましょう。
ペースダウンや休憩時間を増やす
ペースダウンして意識的に休憩時間を増やします。「もっと頑張らないと…」と思って無理をすると、症状の悪化を招くことがあるので注意してください。
疲れてから休むのではなく、疲れる前に休むのも効果的です。休憩するときは、横になって目を閉じるようにします。横になることで、交感神経が緊張した状態をリセットできるのです。
仕事を休むことも選択肢のひとつ
仕事で大きなストレスを抱えている方は少なくありません。ストレスの原因が仕事だと分かっている場合は、思い切って休むのも選択肢のひとつです。
心因性発熱を起こす方の中には、限界まで体を酷使して頑張ろうとする傾向にある方が多くいます。仕事を休み、頑張らなくて良い状態を作って体を休ませましょう。
心因性発熱は何科を受診すべき?
心因性発熱が疑われる場合は、内科を受診します。子どもの場合は小児科を受診してください。体に発熱の原因となる疾患がないかを内科や小児科でまず調べてもらいます。
とくに疾患がないようでしたら、内科や小児科から心療内科に紹介してもらいましょう。
日々の体温を測定しておくと良い
受診する際は、日々の体温を記録したものを持参すると便利です。受診する1週間前ほどから体温の記録をつけておきます。そうすることで、心因性発熱なのかを医師が判断しやすくなるのです。記録をつけることで、自分では気が付かなかったストレスとの関係性が見えてくることもあります。
まとめ
心因性発熱とは、風邪と違って細菌やウイルスとは関係なく起こる発熱です。主にストレスが原因で発症するといわれています。炎症反応が起きて発熱しているわけではないため、解熱剤を服用しても熱は下がりません。
心因性発熱を発症した場合は、原因となるストレスを解消・緩和し、必要に応じて漢方薬や抗不安薬を使って治療を行います。睡眠時間を確保したり休憩時間を増やしたりして体を休めることも有効です。
心因性発熱が疑われる場合は内科や小児科を受診して何か疾患がないかを確認してもらい、何も見つからなければ心療内科を受診しましょう。
(執筆:岡本妃香里/監修:大迫 鑑顕)
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