腎臓内科、行動変容外来の名医・横山啓太郎先生【慈恵医大晴海トリトンクリニック】

2024/01/26 09:40公開

人生100年時代では、多くの人が若い頃と異なり体の中で老化が起こり、その結果として生活習慣病になっていきます。生活習慣病は薬物療法だけでは数値だけの改善にとどまり、生活習慣の改善が病気の進展を抑制する大きな決め手となります。

しかし、「いくら口を酸っぱくして指導しても患者さんは変わってくれない」「一時的によい習慣に変えても、長続きしない」――これは生活習慣病の治療にかかわる医師すべての悩みでもあります。

この難題の壁に立ち向かい、新たな発想に基づく方策「行動変容」で突破した医師が慈恵医大晴海トリトンクリニック所長の横山啓太郎先生です。今回は横山先生が、どうして行動変容外来を開設したか、そして生活習慣を変えるポイントについて伺いました。


横山啓太郎先生 プロフィール
1958年生まれ。東京慈恵会医科大学教授。行動変容外来診療医長。1985年東京慈恵会医科大学医学部卒業し、国立病院医療センターで内科研修後、東京慈恵会医科大学第二内科、虎の門病院腎センター勤務を経て、東京慈恵会医科大学内科学講座(腎臓・高血圧内科)講師、准教授、教授を務める。2016年に大学病院として日本初の「行動変容外来」を開設、診療医長となる。2019年には寝たきりのリスクを減らす「ライフデザインドック」を慈恵医大晴海トリトンクリニックにてスタートさせる。


医師を志した理由は何でしょうか?

普段は「シュバイツァーにあこがれていたから」と答えていますが、生命に対して漠然と疑問を感じたのがきっかけです。生や死を意識するような出来事に合ったわけではないのですが、6~7歳には生命に興味を持っていました。

■腎臓内科を専攻した理由にはどんなものがありますか?

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もともと理論的に考えるのが好きだったため、内科系の診療科を視野に入れていました。ただ、当時は同じ内科系でも呼吸器内科や消化器内科はがん患者さんがメインとなるので、手術による治療が必須。そうなると内科医は長い間患者さんを見続けることができなくなるのが一般的だったんです。

内科の医師が継続して患者さんを診療できるのは、腎臓内科・循環器内科・血液内科でした。腎臓は、血液の量と成分を決める臓器で、腎臓内科では患者さんの体全体を診ることが求められます。患者さんの様々な体の変化を拝見できることに魅力を感じました。一方の循環器内科はカテーテル治療がつきもので、自分のスキルに自信がありませんでした。研修医の頃は血液内科を専門にしようと考えたのですが、患者さんとの体験を経て腎臓内科に決めました。

大学卒業後はどのようなご経験を積まれたのでしょうか?

研修医時代は現在の国立国際医療研究センターで過ごしました。

初期研修を終えた後は大学の医局で3~4年過ごし、その後虎の門病院に派遣されました。1995年に起きた地下鉄サリン事件では、搬送された患者さんの診療もおこないましたね。

その後は、大学の医局に戻って腎臓病の研究をしたり、診療ガイドラインの作成メンバーや理事になったりした後に、慈恵医大の教授に就任し、現在は行動変容外来に力を入れています。

腎臓という全身を司る臓器を研究したことが生活習慣病の患者さんを診る基盤となっています。

なぜ行動変容外来を開設されたのでしょうか?

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きっかけは、ある生活習慣病患者さんとの次のような会話でした。

横山「〇〇さんを診るようになって3年になりますね。この間、あなたの症状にはタバコを止めることと、体重を減らすことが重要だと、毎回時間をかけてご説明してきました。タバコと肥満のリスクは重々理解いただいていると思います。それなのに、どうして〇〇さんはタバコの本数も減らさなければダイエットもしてくれないんですか。お話はムダなのでしょうか。もし、説明時間を5分か1分か選べるとしたら、どちらがよいですか」

患者「1分でお願いします。タバコと肥満のリスクはもう承知していますので。なんなら説明時間は“なし”でもいいですよ」

横山「え、そうなんですか。それはショックですね(苦笑)。では、どんな説明、あるいは医師の話なら、5分間説明を聞く価値があると思いますか」

患者「“みのもんた”のような先生の話なら、聞いてもいいかな。みのさん、面白いですよ。みのさんから、『健康のためにはアレを食べたらいい』とか『こうすれば健康になるよ』と言われると、やってみたくなりますね-」

かつて、みのもんたさんが司会していた昼のバラエティ番組は、メイン視聴者である主婦層から絶大な人気を博すと同時に、大きな影響力を持っていました。

私は「みのもんたさんと、私たち医師の違いは、方策を伝えるかどうかだ」と気が付いたんです。患者さんが受験生だとしたら、これまで私たちは、志望校の入試では数学は必須科目だから勉強しなさいと事実を言うだけでした。でも、いくら事実を告げても、患者さんは、どうしたらいいのか方策が分からなければ行動を変えられないですよね。数学が苦手なら、英語に力を入れて点数を上げれば志望校には合格できるよと、人をやる気にさせるところまで伝えるのが、みのもんたさんだったんです。

そこに気が付いてからは、患者さんのマインドを動かすコミュニケーションを考えました。そして2016年に、大学病院では初めて行動変容外来を開設しました。

行動変容外来をについて具体的にお話しいただけますか?

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当外来の特徴は、その人が主体的に健康管理に取り組み、健康によい行動を習慣化できるようにサポートすることです。医師・看護師・栄養士によるチームで対応する全5回の行動変容プログラムが主軸になります。

行動変容の第一歩はあらゆる面から自分のことをよく知ること。例えば、外来では国際的に定評のある「NEO性格分析」を用いて、その人が自分の性格を自覚したうえで健康管理に効果的に取り組めるようにしています。性格分析の結果は、医療スタッフがその人の性格に応じて説明の仕方を変えたり、減量や運動などのアプローチ法を提案したりする際にも役立てています。

一方、血圧や血糖のコントロールでは数変動の特徴を踏まえたうえで“どのような対策を行うべきなのか一人ひとりの状況や状態に合わせた具体的な方法を提示し”それが日常生活において習慣化できるように導いていきます。

先生が行っている「ライフデザインドック」についても教えていただけますか?

行動変容外来での実績を活かし、人によって異なる「生活習慣病にならない生活術」を見つけ、実行に結び付ける日本初の人間ドック「ライフデザインドック」を開設しました。

従来の人間ドックの健診メニューに加え、NEO性格分析を参考にした「性格分析」を用いて得られた受診者の性格パターンに合わせたカスタムメードの生活指導を行っています。また、タニタが開発した運動機能分析装置「ザリッツ」とマルチ周波数体組成計で運動機能や筋肉の状態を「見える化」することによって、将来の要介護や寝たきりになるリスクをチェックできるのが特徴です。

運動機能分析装置では、椅子に座った状態で装置に足を載せ、踏ん張って立ち上がるだけで、脚の筋力とバランスの状態を計測できますし、マルチ周波数体組成計では「体重」「BMI(肥満指数)」「筋肉量」「筋質点数」「体脂肪率」「筋肉総合評価」が測定できます。

こうした分析や測定はもちろん重要ですが、これらの情報をどう受け止め、指導に生かすかが一番重要です。積み重ねてきたノウハウと、行動変容外来の知見が生きる、このドック最大の特長と言えると思います。

検査結果は一緒でも、どのような指導を受けられるかでその先の運命には大きな差があらわれます。

これからの健康診断はどのようになっていきますか?

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人間ドックの測定項目を変えるという発想が大切です。現在医療システムの問題は、いまの医療システムが「人生70年時代」から更新されていないことです。本来なら、医療は人生100年に合わせ、急性疾患の予防だけでなく老化を遅らせる方策、認知症や寝たきりにならないための方策を患者さんに提供するよう進化していなければならないはずです。

ところが現代医療はまだ、圧倒的に急性疾患への対応に重きを置いています。病院の診療科が臓器別・器官別になっていることからもそれはわかります。

腎炎なら腎臓専門医、肝硬変なら肝臓専門医が対応しています。しかし、個別の病気を診ることのできる医師はいても、全身の老化に対応できる医師は殆どいません。そのため、65歳までは糖尿病内科や循環器内科の医師に過食を制限されていたのに、70歳を超えたとたんに老年科の医師から寝たきり予防のためにはたくさん食べてください、といわれています。現状の医療体制ではそんなおかしな事態が起こってしまっているのです。

ライフデザインドックは、そのような課題を解決するためにスタートしました。

■生活習慣を変えたい方へのメッセージをお願いします

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習慣を変えるのはとても大変なことです。私は習慣を変える21のメソッドを用いて患者さんに説明しています。

習慣を変える21のメソッド

1.     習慣化させたいことの必要性を考える(過去や未来でなく現在を重視する)

2.     自分で方策を考える

3.     1つからはじめる(複数から1つを選ぶ)

4.     初期目標は低くし、段階的に目標を上げる

5.     実際にやってみる

6.     既存の習慣と結びつける

7.     時間を決める

8.     協力者をピックアップする

9.     方策に名前をつける

10.   かんたんな記録を取るようにする(自己に興味を持つ)

11.   やる気がなくてもその場に行ってみる

12.   逃げることができない状況をつくる

13.   習慣が途切れそうなときの対処法を決める

14.   1週間以上つづかなければ、一生つづかない。別のやり方に移る

15.   瞑想する

16.   自分にご褒美をあげる

17.   進歩している自分を楽しむ

18.   褒める

19.   3分やり過ごす

20.   できなかったことを意志のせいにしない

21.   妨げになる行為に名前をつける

21もあると、知識として持ち運ぶことは難しいのですが、2つのことをキーポイントとして持ち運んでいます。

それは、

・自己肯定感を上げるためにはどのようにしたら良いか?

・習慣を変える意識を日常化するためにどうしたら良いか?

という2つのポイントです。

その2つを心に留めて、子どもを育てるように「やる気」を育てていくことが習慣を変えるには重要です。

(執筆:株式会社メディコレ編集部)

お話を伺った横山啓太郎先生

お話を伺った横山啓太郎先生

経歴

1958年生まれ。東京慈恵会医科大学教授。行動変容外来診療医長。
1985年東京慈恵会医科大学医学部卒業。国立病院医療センターで内科研修後、東京慈恵会医科大学第二内科、虎の門病院腎センター勤務を経て、東京慈恵会医科大学内科学講座(腎臓・高血圧内科)講師、准教授、教授。
2016年に大学病院として日本初の「行動変容外来」を開設、診療医長。
2019年には寝たきりのリスクを減らす「ライフデザインドック」を慈恵医大晴海トリトンクリニックにてスタート。

所属学会・認定医など

【所属学会】
日本内科学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、米国腎臓学会

【資格】
日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本腎臓学会認定専門医、日本透析医学会指導医

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