【どう連携している?在宅医療の現場から】たかねファミリークリニック院長・高根先生×中野区介護支援専門員協会会長・宮原さん

2024/05/15 14:42公開

2025年には29万人が必要とするとされる在宅医療は、医師、ケアマネ、ヘルパー、薬剤師など多くの専門職によって支えられています。2024年6月施行の診療報酬改定2024では、医療・介護・障害サービスの連携強化が促されていますが、在宅介護と在宅医療はどう連携していくべきなのでしょうか?

今回は、在宅医療に力を入れている、たかねファミリークリニックの高根紘希先生と、中野区介護支援専門員協会会長の宮原和道さんに、それぞれの立場からの在宅医療における他業種との連携の重要性や、上手に連携するコツを伺いました。

お話を聞いたのは

仲良しの2人、でも実は・・・!?


名称未設定

――本日はお時間をいただきありがとうございます。医師とケアマネジャー、それぞれの立場から見た在宅医療についてお話を伺っていきますが、お二人はこれまで一緒に働いたことがあるんでしょうか?

高根先生:実はないんです(笑)ただ、地域のイベントなどではよくご一緒させていますよ。宮原さんの会社に所属しているケアマネさんとはお仕事することがありますね。

宮原さん:そうですね。高根先生とは、私たちが企画している認知症の方とのマラソン企画とか。ダイバーシティフェスなどのイベントにはよく参加いただいています。先日は会合に遅れて参加されたので、私たちが用意したYOSHIKIのワインを飲むことができなかったので、別途私が先生にお届けしたりしましたね(笑)

高根先生:あのワインはとても美味しかったですね!


【高根先生】「ケアマネさんは全体のマネージャーで頼りがいのある存在」


――とても親しい様子ですね。お二人が同じ患者さんを担当されたら、連携力が凄そうです。実際に訪問診療医とケアマネジャーはどのように連携されるのでしょうか?


名称未設定


高根先生:訪問診療なので家で診療することになりますが、患者さんから直接依頼を受けることはほとんどないんです。ケアマネさんから私たちのクリニックを選んでいただいて、診察が始まることが多いですね。


診察にあたっては、ケアマネさんから患者さんの社会的背景から病気やご家族のこと、困っていること、患者さん自身に関する注意点といった幅広い情報を共有していただきます。この情報の共有から全てが始まるんです。実際に診察を始める時には、ケアマネさんと一緒に患者さんの家に行って、紹介してもらってから診察していきます。


ケアマネは文字通り全体のマネージャーだと私は考えています。在宅医療をコーディネートしていただくだけではなく、在宅介護との橋渡しにも奔走してくれます。


診察の後に、私たち医師はケアマネさんに必ず報告をしています。私は、診察内容などの患者さんの状況だけではなく、ご家族のことや社会的なことも含めて必ず報告することを心がけています。こうした情報共有が元になって、家の中に手すりつけたり、介護を別途入れるなどの対応を考えたり、デイサービスを利用することなどもコーディネートしてくれる頼り甲斐がある存在です。




【宮原さん】「在宅医療は関わる専門職同士の情報共有や連携がとても大事」


名称未設定


宮原さん:ケアマネ目線からお話しすると、患者さんが訪問診療に繋がるのは3パターンあります。一つは、退院前に病院で訪問診療が決まっている場合。他に訪問看護ステーションを決めて訪問看護に連携しやすいところを決めるという場合もあります。そしてもう一つが、元々クリニックなどの外来で通院されていた方の足腰が弱くなって通院できなくなり訪問診療に切り替える場合です。


在宅医療は関わる専門職同士の情報共有や連携がとても大事で、それぞれの立場によって考える患者さんらしさということが違ってきます。ですから、担当者会議などで情報のすり合わせをして共通理解を作ることが重要です。


気になる連携術!便利なツールで密に情報共有


――連携はどのようにしているのでしょうか?


宮原さん:医師もケアマネも忙しいので、電話だとなかなか日程が合いません。ですから、在宅医療のための患者さんごとの掲示板アプリや、チャットアプリ、メールなどを活用しています。


高根先生:患者さんにとっては1週間7日ありますが、訪問看護は週1回60分、医師は2週に1回30分の診察を行う形になります。毎日行くヘルパーさんが得ることができる情報とはやはり異なります。それぞれの専門職が、それぞれのポイントで見ている情報はなるべくリアルタイムでしっかりと共有したほうがいいと思います。


宮原さん:ちなみに、私たちが活動している中野区では、「なかのメディ・ケアネット」という独自のツールがあり、無償で利用することもできます。私もツールの開発・提供に委員として関わっています。


高根先生:そうでしたね。私も「なかのメディ・ケアネット」を使おうかなと思ってまだ使えていないので、今後検討したいと思っています。ただ、実際にチームを組む方が既存のやり方の方がやりやすいなどの声をいただいているので、まだ利用できていないという事情もあります。


宮原さん:どんどん普及させていきたいので、ぜひよろしくお願いします!


編集部注)
「なかのメディ・ケアネット」は在宅で医療・介護サービスを受ける方の情報を、医療・介護スタッフが電子システムで共有する仕組みです。中野区が運営して、セキュリティがしっかりしていることが特徴になっています。

「なかのメディ・ケアネット」の公式ページ


ケアマネから見た「頼れる訪問診療医」とは


名称未設定


――情報共有が大きなポイントであるとのことですが、ケアマネジャーから見て、頼れる訪問診療医とはどのようなタイプでしょうか?

宮原さん:いつでも相談に乗ってくれる先生が一番頼りになりますね。それと、医学的な専門用語ではなく、みんながわかる言葉で話していただける先生は仕事がしやすいと思います。高根先生はまさにそのタイプ。

介護の現場では、ご家族の意向や患者さん本人の意向と病院の意向がズレることがあります。病院にいる医師としては退院後は施設で対応してもらいたいと考えていても、ご家族は自宅に連れて帰りたいという場合がよくあります。そういう時は訪問診療医の存在がとても頼りになります。訪問診療医の先生に「在宅医療で対応できますよ」と言ってもらえれば、患者さんご本人も家族も安心ですし、病院側も納得してもらえるからです。

――確かに、専門的な言葉ではなく患者さんも理解できる言葉で話してもらえると、患者さんや家族から見ても安心できる材料になりますよね。


訪問診療医から見た「頼れるケアマネ」とは

――では、訪問診療医から見た信頼できるケアマネジャーはどのようなタイプでしょうか?


名称未設定


高根先生:ご家族のお話をよく聞いてくださり、その上で医療従事者の意向なども聞いてくださるケアマネさんはありがたいですね。


ご家族の中には、医療従事者、特に医師に対して遠慮があるのかあまりご希望を仰らない方もいます。ケアマネさんは在宅医療全体のマネージャーだと思っていますので、ご家族と医療者の認識を同じ方向に向けてくださる、架け橋になっていただける方ですと非常に助かります。

それと、お互いが遠慮せず、患者さんのことを中心に考えて何でも言い合える関係の人だと嬉しいです。同じ患者さんを通してお仕事したことはないですが、宮原さんがまさにそのようなケアマネさんです。

一つ屋根の下で働いていなくても、1人の患者さんのために1チームで尽くことができるのが、在宅医療の醍醐味だと僕は思っています。それを一緒に叶えていただけるケアマネさんだとありがたいですね。

――1チームとしての力を最大化してくれるケアマネジャーが求められますね。




ケアマネから見た「連携しづらい医師」とは


名称未設定


――ここまでお二人には一緒働きたいタイプの人を伺いましたが、逆に一緒に働きたくない人はどのようなタイプでしょうか?


宮原さん:話を聞いてくれない医師ですかね。例えば、ご家族の話も聞かずに、診療方針を決められると、診察の後にご家族から私たちケアマネに相談が寄せられる時があります。「先生に言ってくださいよ」と。こうした場合は、どう医師に伝えたら理解してもらえるか悩みますね。看護師を挟んでお伝えするのがいいか、薬剤師を挟んで伝えるのがいいか、ケースバイケースです。やっぱり板挟みが辛いんですよね。


質問の趣旨からは少し外れますが、病院の医師で在宅医療について理解がない方が一定数いらっしゃいます。「24時間診ないといけない患者だから在宅医療では無理だ」と言われた場合は、訪問診療とヘルパーの体制を説明して、在宅医療でできることを真摯に説明して理解をいただくようにしています。


高根先生:総合病院の医師って在宅医療のこと知らない人は多いですよね。私も5年前まで大学病院で勤務する医師でした。そもそも現在のクリニックを開業したときも、「在宅医療はやらない」と決めていたんです。外来診療だけ提供する予定でしたが、たまたま依頼されて訪問診療に対応した時に、面白いと思ってのめり込みんだという経緯があります。


大学病院の医師からすると、家で何の医療行為をするんだろうというところからわかっていない人も少なくないと思います。ちなみに、私は2003年に大学を卒業しているんですが、その当時は大学では在宅医療についての講義やカリキュラムはなかったと記憶しています。




高根先生「患者さんだけでなく在宅医療チームを支え、連携できる人と働きたい」


名称未設定


――高根先生が一緒に働きたくない人はどのようなタイプでしょうか?



高根先生:あまりいらっしゃいませんが、患者さんに寄り添う気持ちがあまり感じられず、連絡しても反応が薄かったりすると残念な気持ちになる時はあります。



1チームで行う在宅医療においては、信頼関係が重要になります。患者さんから信頼される以外にも、我々チーム内の信頼関係もとても大事です。



我々がお互いに支え合わないと、うまく患者さんを支えられないです。誰かが困ったときはみんなで支える、そこの連携ができる人がやりやすいですし、そうでなければ在宅医療はできないと思います。



――在宅医療のチームとしてのあり方をとても大事にしている高根先生からすると、確かにお互い信頼ができないと難しいですよね。




地域医療を突き詰めて考えると「地域社会を支えること」になる


名称未設定


――今後ますます在宅医療の重要性は増してくると思いますが、これからの地域医療において訪問診療医とケアマネジャーが果たすべき役割について教えてください。

高根先生:5年前に大学病院を辞めこの地で外来診療を始めて、在宅医療と出会い、宮原さんなどさまざまな人と交流する機会が増えました。

地域医療ってものすごく面白いです。私たちの医療法人の名前は、「メディロコ」という名前なのですが、医療を意味するメディカルと地域を意味するローカルという英語を掛け合わせて作った造語です。地域医療が重要だと思った時に地域と医療が入った法人名にしようと思いました。

法人名にあるように、地域医療に対して医療ができることを突き詰めていくというのが一番の使命だと思っています。突き詰めて考えると、街づくりそのものなのかもしれません。

宮原さん:確かにそうですね。地域社会を支えるということですよね。

高根先生:地域で訪問診療を知ってもらう、地域で支えてもらうとか、それが大切だと思います。やっぱりどれだけ立派な街があったとしても中で生きる人々が元気に生きがいを持って過ごさないと、街全体としてはよくありません。そこに住む人が元気に生きがいを持って過ごすことができるサポートを医療を通して、また医療に限らずしていきたいですね。

宮原さん:医療でリーダーシップを持つ医師、介護でリーダーシップを持つケアマネジャーが協力し、利用者さんが住みたい場所で生きがいを持って住み続けられるように、地域社会を一緒に作っていけるのが理想ですね。


――今回は、訪問診療医の高根先生と、ケアマネジャーの宮原さんと対談形式でお話を伺いました。共通して感じたのは、患者さん、在宅医療への熱い想いです。また、医師がケアマネなどの専門職と密に情報を共有し、患者にとってベストな医療・ケア体制をとっていく重要性を教えていただきました。それぞれの専門職の立場から得られる患者の情報を1つに集約し、「1チーム」で患者の健康にコミットする訪問診療は、地域医療において今後ますます求められると感じます。


(取材:メディコレ編集部)

この記事の著者

おすすめ記事

インタビュー記事一覧へ戻る