2025年には29万人が必要とするとされる在宅医療は、医師、ケアマネ、ヘルパー、薬剤師など多くの専門職によって支えられています。2024年6月施行の診療報酬改定2024では、医療・介護・障害サービスの連携強化が促されていますが、在宅介護と在宅医療はどう連携していくべきなのでしょうか?
今回は、在宅医療に力を入れている、医療法人社団幸靖会理事長でみやぎクリニック院長の宮城長靖先生、そしてCosmosケアプランのケアマネージャー櫻井京子さんに、それぞれの立場からの他業種との連携の重要性、今後の地域医療の在り方や在宅医療の現状の課題についてなどを伺いました。
お話を聞いたのは
ケアマネと訪問診療医の連携方法
――本日はお時間をいただきありがとうございます。医師とケアマネージャー(ケアマネ)、それぞれの立場から見た在宅医療について教えていただきたいと思います。在宅医療では患者さんごとにチームが作られるので、連携もとても大事ですよね。連携はどのような方法で行なっているのでしょうか?
櫻井さん:連絡をするときは電話が多いと思います、医療と介護職が連携するための専用のツールもあるのですが、確かに便利ではあるものの、登録していないんですよね。言葉の方が早くニュアンスも伝わりやすいので電話をしてしまう傾向にあります。
宮城先生:確かに電話でのやりとりが多いですね。患者さんの状況によっては急いで確認をする必要がある場合もありますから、電話だと手っ取り早いからです。
櫻井さん:みやぎクリニックは、いつ電話しても出ていただけるので、大変ありがたいです。
宮城先生:ありがとうございます。そう言っていただけると励みになりますね。クリニックのスタッフには、院内にいるときは必ず電話が繋がるように指導をしています。例えば用事があって受付から離れる時には、電話の子機を持って移動するなど工夫をしています。
ケアマネから見た「頼れる訪問診療医」とは「傾聴してくれる先生」
――いつでも電話が繋がることは、状況がいつ変わってもおかしくない患者さんをケアする立場をしては大きな安心材料ですよね。ケアマネから見て、「頼れる訪問診療医」とはどのようなタイプでしょうか?
櫻井さん:ケアマネをはじめとした在宅介護にかかわる仕事は、長い間患者さんと一緒に過ごす大変な仕事です。病状が悪くなると医師に電話で相談することもできますが、病状の変化以外でも不安なことはたくさんあります。そういうことに対しても傾聴してくれる医師は頼り甲斐があると感じますね。何か解決策を教えていただくのではなく、ただ聞いてくれるだけでもいいんです。
――例えばどんな時に不安な気持ちになるのでしょうか?
櫻井さん:認知症の患者さんの介護拒否が強いとかでしょうか。こういうことは先生でも対応が難しいとは思うのですが、それでも聞いてほしいという気持ちはあります。聞いてもらえるだけでも全然違いますし、介護スタッフも落ち着くんです。
あとは、夜間の対応や連絡がスムーズに取れる訪問診療医は頼り甲斐がありますね。私たちケアマネがお願いして良かったなと思ったクリニックは、事業所内やケアマネ交流会で名前が出るなど、情報が共有されますね。
訪問診療医から見た「頼れるケアマネ」とは「密に連携できる方」
――櫻井さんからは、夜間対応や連絡がスムーズ、悩みに傾聴してくれる医師が頼り甲斐があるとのお話をいただきましたが、訪問診療医から見た信頼できるケアマネージャーはどのようなタイプでしょうか?
宮城先生:やはり迅速に対応してもらえることという点は大事だと思います。クリニックにはご家族の方から患者さんの病状以外の電話もかかってきます。私たちで対応できない部分もあるので、ケアマネさんがうまく対応してもらえると助かりますね。
あとは情報がしっかりと連携できる方です。医師が患者さんを訪問して診療するのは月2回が定例です。医師が訪問した以外の日に患者さんに接した時の情報はどんどん共有していただけると診療に役立つことも多く助かります。
――情報共有や連絡の密度はそれほど大事なのですね。
宮城先生:そうですね。訪問診療は医師だけではなく、様々な専門職がチームで患者さんと向き合うことで成り立つものです。医師が患者さんと接する日以外にも、他の専門職の方々が患者さんと接しています。
こうしたそれぞれの専門職が得た患者さんの情報を1つにまとめることで、患者さんや家族が安心して過ごせる環境を作れると思います。それぞれの専門職がしっかりと連携することが大事で、その要になるケアマネさんとは特に情報共有をしっかりとることが重要となってきます。
――具体的に、情報共有が上手にできていなかったことで、悔やまれることなどはあったのでしょうか?
宮城先生:これは実際にあったケースなのですが、私が診ていた患者さんが、ある日突然転居するということがありました。突然のことでしたので、処方する薬は通常と同じ量しか出せなかったのですが、事前に連携が取れていれば、患者さんが次の施設に入るまで多めに薬を出すなどの対応もできたと思うんです。転居が突然決まることはもちろんあるのですが、もしも前もって転居することをケアマネさんで把握されていたら一報が欲しかったと今でも思います。
――こうした連携の方針については、ケアマネ個人の裁量にゆだねられるのでしょうか?
櫻井さん:そういう側面はあると思います。あとは事業所単位で変わることもありますね。事業所全体で意識が高いところは、しっかりと連携していると思います。
訪問診療の患者さんやご家族への想いと上手な関わり方
――患者さんに接するときにそれぞれが大事にしていることについて教えてください。また、患者さん家族との上手な関わり方について、それぞれの立場からのコツがあれば教えてください。
櫻井さん:私が患者さんと接するときに大事にしているのは、よく観察することです。家族の目を気にするかとか、自分の意見を言えるかとか、じっと見ています。あとは、部屋が汚れているかとか、ご家族との信頼関係も見ていますよ。患者さんがご家族にどこまで心を開くのかは大事なポイントです。患者さんのタイプによっては、初めて会った時から心を開いてくれる方もいますが、そうではない方もたくさんいます。少しずつ情報を引き出していって、ベストな対応ができるように心がけています。
患者さんご家族との関係は、ご家族間の昔からの関係性がすごく影響してくるんです。この塩梅を見極めることが本当に難しいです。
家族関係が長期にわたって良ければ、もちろん在宅医療は進めやすいです。逆もまたしかりで、例えば患者さんのお子さんが面倒を見る場合、幼少期からの関係性が悪いから介護にはほとんど協力できない人もいます。ここをどう変えるのか、どこまで介護ができるか、ということはご家族に私たちが直接向き合いながら調整するしかありません。患者さんとご家族の「今」だけを見るのではなく、昔からの関係性をよく見極めてお付き合いするのがうまくいくコツだと思っています。
――長い間に出来上がった人間関係を調整することは本当に大変なことですよね。宮城先生はどうですか?
宮城先生:患者さんと接すると、すごく多くの感情が湧きます。たくさんの患者さんと出会うし、そもそも私は人が好きなんです。ですから、もしも患者さんが亡くなったら寂しくなるし、泣きたくなる時もあります。プロとして堪えないといけませんので、そこはグッと我慢をしますけどね。
ビジネスライクにやるのではなく、医者としてのアイデンティティーを忘れずに時として父になるような気持ちで患者さんやご家族と向き合うことが、クリニック経営をしている医師には重要だと思います。
付き合うコツとしては、傾聴と根気よく説明することですかね。医療的な見解と家族の見解が異なることはよくあることです。そこをうまく伝えるのが大事なポイントです。
先ほど櫻井さんが話題に出された認知症の患者さんもそうですが、ずっと一緒にいると、病気だとわかっていても、常に穏やかな気持ちで接することは難しいと思います。ずっと一緒にいることがお互い辛い時があるので、デイサービスやショートステイを提案する、いよいよとなると施設に入った方がいいのではという提案をすることもあります。
医療的に正しいことを伝えつつ、時には医師から介護の必要性について厳しく伝えることもあります。家族はナーバスになりがちなので、医療的な思いと家族の思いを擦り合わせていくんです。パタリとご家族からの電話が止まると心配になるので、1週間ぐらいしたらこちらから連絡することもしています。
――医療的な正しさと患者さんの気持ちの折り合いはどうつけているのでしょうか?
宮城先生:これは、説明することに尽きます。説明してすぐ理解する人は、そもそも説明する必要ないことが多いかもしれません。説明が必要なケースほど、説明しても伝わらないことが多いんです。職員や部下を育てるのと同じように言い続け、その中で指導したり、対応のさじ加減を調整しながら向き合い続けることが大事です。
私の記憶の中で印象深く残っているのが、生活保護を受けている元ホームレスの患者さんです。彼は在宅介護・医療に関わるすべての人を拒否していたんです。私も恫喝されたりしました。彼の血圧が最初200オーバーだったので薬を飲むようにと話をしたんです。しかし素直に飲んでくれないんですよね。そういった時には、「これ飲まないと死んでしまうから飲みなさい!」と、父親のように言ったこともありました。
患者さんやご家族に治療の方針が理解されないことが多い中で、自分としては親のような気持ちで時として家族や本人に指導したりすることもあるんです。
――宮城先生のように、アツく、真正面からお話いただけると、難しい患者さんの心も動かしてくれるような気がします。
それぞれが思う在宅医療の課題について
――宮城先生は在宅医療についてどのような課題を感じていますか?
宮城先生:私が感じる課題は、在宅医療を受けたいのに金銭的に厳しい方がとても多いということです。金銭的に厳しいが故に、在宅での介護や医療を受けたくても受けられない。例えば、食事サービスを入れたいが入れられない、買い物を頼みたくても頼めない人もいます。それらを頼むことができれば、在宅医療を受けられるのにそれができないのです。
櫻井さん:確かに金銭的に厳しい患者さんを在宅でどう見ていくかは課題だと思いますね。私たちケアマネは、困っている方がいたら公営住宅などの申し込みを代行することもありますので、そうした金銭的な困窮の現場はよく目撃します。
生活保護を受けた方は逆に国の医療扶助を受けられるのですが、生活保護の対象にギリギリならない方が一番難しい気がします。
行政が動かないとこういったはざまにいる人が受けたくても在宅医療を受けられない現状は変わらないですよ。在宅医療をもっと推進させようとしたら、ここも変えていく必要があると思います。
――確かに、患者さんが在宅医療を受けやすくするための社会的な対策が必要ですよね。ほかに課題に感じていることはありますか?
櫻井さん:私が課題に感じることは、在宅での看取りについて、患者さん本人やご家族に知識や情報が十分ないことだと思います。
ケアマネは当たり前のように在宅看取りの対応ができるのですが、患者さん本人や家族が在宅看取りを不安に思い、在宅医療を選択できる場面でも選択しないことがあります。どれだけ説明をしても、看取りが不安だと在宅医療の受け入れを躊躇されるのです。自分の家族が自宅で亡くなるということを想像もできないからだと思います。
患者さん本人は病院で治療を受けるより自宅にいたい気持ちが強いことが多いのですが、皆に迷惑をかけるから病院や施設に行こうかなと決断される方がたくさんいます。介護者の負担はもちろんあるのですが、在宅の看取りが安心してできるということはもっと多くの方に知ってほしいです。
宮城先生:個人的な思いをお話させていただくと、在宅看取りってすごくいいと思っています。実際に多くのご家族と接する中で、最終的な満足感は病院で看取られたご家族とは在宅看取りをされたご家族では違うと感じています。
病院で亡くなる場合は、ご家族の方から「もっと色々できたのに」とか、「最後好きなものを食べさせたかった」などの後悔の言葉を多く聞きます。一方で、在宅看取りをした後のご家族からはそういった後悔の言葉を聞くことは少なく、どちらかと言えば家で看取れた満足感が感じられました。
――普段真摯にお仕事に向き合っているからこそ出る具体的な課題は本当に勉強になります。
宮城先生の地域医療に対する想いとは
――これからの地域医療において訪問診療医とケアマネが果たすべき役割については、どう考えているでしょうか?
宮城先生:一番大事なのは、医療圏の問題だと思っています。大きな病院、二次救急病院、三次救急病院に行くことを少しでも減らすのが、私たちが取り組んでいる予防医療だったり、訪問診療だと思います。もちろん本当に必要な人は大きな病院に速やかに誘導しますが、生活圏の中で医療を維持するために予防や在宅医療をやっていくことはとても重要で、訪問診療医とケアマネがダッグを組んでしっかりと向き合っていくべき役割だと思います。
もちろん、家族は家で看たいと思っているが疲弊している、というご家族であれば無理に在宅介護や医療を選択せずに、施設への入居を勧めないといけません。そういった家族ごとのベストなケースを提案するにはケアマネさんとの連携が欠かせませんね。常に我々がリードして患者さんやご家族にとってベストな方向に誘導していく必要があります。
櫻井さん:まだまだ課題も多い在宅医療ですが、家で家族を看る良さ、看取る良さなどももっと多くの方に知ってほしいです。行政に訴えかけていくことも必要ですね。
宮城先生は、訪問診療への熱意に満ちた力強い言葉で取材に答えていただきました。こうした情熱は、患者さんやご家族にとっての頼り甲斐につながっているのだと思います。また取材後に、櫻井さんから患者さんの治療方針についての質問を受け、疑問が解消するまでしっかりと向き合う様子を見て、チームワークの良さを感じました。
(執筆:メディコレ編集部)