高齢化が進む日本では在宅医療のニーズは大きく高まっています。こうした中で、入院先の病院から在宅医療に切り替える際に調整役を担っている地域医療連携室の重要性も増しています。
今回は、医療法人ひのとり理事長の鴨下友彦先生とキョーワ訪問看護リハビリステーション寄り添い屋名北店の看護師、石橋尚之さんに、地域医療における訪問診療の重要性を伺いました。
お話を聞いたのは
訪問診療医師と「寄り添い屋」との連携について
――本日はお時間をいただきありがとうございます。訪問診療を行う医師と地域医療連携室で働く看護師のそれぞれの立場から、在宅医療への思いを伺っていきます。本題に入る前に、石橋さんの勤務先の「寄り添い屋」について伺ってもよろしいですか？
石橋さん 私たちは健康障害を抱えて家で過ごしている皆さまなどに向け、訪問看護とリハビリを行う事業をしており、『ご利用者さまと利用者さまのご家族を中心にした看護を行いサポートしながら、常に「黒子」のように寄り添います。』ということをビジョンに掲げている会社です。
利用者の考えを大事にしながら看護師として何ができるかを常に考えています。
鴨下先生：医師による診察回数は限られていますが、その中で患者さんの状態やご家庭の状況を総合的に判断して治療方針が決まります。そうした状況の中では、医師よりも高い頻度で患者さんの家に訪問する訪問看護師の方との情報共有はとても重要ですね。
ーー訪問診療医と訪問看護師の連携について言及いただきましたが、普段の業務の流れを教えてください。
鴨下先生 訪問診療の流れとしては、まず医師が診察を行い、看護師による介入の必要性やリハビリ導入の必要性などを判断します。もし、こうした介入が必要だと判断した場合には、医療保険と介護保険のどちらを活用するかによって流れが変わります。
医療保険を活用する場合は、訪問看護ステーションに直接介入してほしいと相談します。また、介護保険を活用すると、ケアマネージャーが間に入って、ケアプランとしての医療提供が行われます。こうした場合は、ケアマネージャーを介して看護師に相談したり、ケアマネージャーと打ち合わせした上で訪問看護の依頼をすることが多いです。
訪問診療医師と看護師との効果的な連携方法とは
――訪問診療医と看護師はどのような方法で連携しているのでしょうか？
鴨下先生 電話とチャットツールを利用して、情報共有していることが多いと思います。私は情報の集約が大事だと思っているので、当院では情報の受発信の窓口を作って、情報をきちんと集約した上で治療方針を決定できる仕組みを作っています。院内で情報格差が出ないように心がけています。
石橋さん 私たちもチャットツールを使って在宅の医師にコミュニケーションを取っています。それ以外にも、電話やファックスなどあらゆる方法を使っています。また、訪問看護師としてはツールだけに頼らずに、医師の往診になるべく同行し、現場で医師の考えや患者さんの病状を一緒に確認して、チームとして患者さんのことを一緒に考えることを忘れてはいけないと思っています。
――こうした情報連携に関して大変だったことはありますか？
鴨下先生 大きなトラブルの経験はありませんが、治療方針を患者さんに確認するときに、医師と訪問看護師が確認した結果にギャップが生じることがあります。極端なケースでは、真逆になることもあるので、治療方針が患者さんにフィットしていないと適切な医療が提供できない可能性もあります。
こうした状況を防ぐためには、医師だけで患者さんとお話しするのではなく、看護師やケアマネージャーに同席してもらって、一緒に治療方針を確認することが効果的だと考えています。とはいえ、なかなか全てのケースに同席してもらうことは難しいです。
訪問看護師から見た信頼できる訪問診察医とは
――訪問看護師から見た、頼れる訪問診療医はどのような方でしょうか？
石橋さん 訪問看護師から見て頼りになる医師は、看護師が現場に行ったときに、看護師の話を含めて状況判断ができる先生だと思います。先日、患者さんの様子に変化があったことがあり、患者さんの家に急行したことがありました。こうした時に、患者さんやご家族の気持ちに加えて、看護師としての専門的な判断を医師にお伝えすることになります。こうした情報をしっかりと受け止めていただいた上で、適切な指示をもらえるととても心強いです。具体的な治療方針が定まることでスムーズな連携ができることで、患者さんやご家族に的確な対応を取ることができるのは大きな意義があります。
訪問診察医から見た信頼できる訪問看護師とは
――逆に、訪問診療医から見た信頼できる訪問看護師の方はどのようなタイプでしょうか？
鴨下先生 一言だと言いにくいのですが、まずは状態の報告や確認を確実に実施していただくことが信頼の大前提になります。患者さんの健康を見ていく上で、看護師からの報告による情報によって判断することが結構ありますので、訪問した時の患者さんの状況を見て、正確にちゃんと伝える看護師さんは重要です。
当院としては、患者さんに医療提供だけすればいいとは思っていません。患者さんの生活環境や状況を整えた上で医療提供することが大事だと考えています。
そういう意味では、患者さんの病状だけではなく、生活状況にも目を向けて医師に相談したり、生活状況に問題があれば、その問題を解決するところに目を向けることができる方が信頼できる訪問看護師だと思います。
――「患者さんの生活環境や状況を整えた上で医療提供する」という思いは、患者さんやご家族にとってはとてもありがたい考え方だと思います。
鴨下先生 ありがとうございます。私たちが在宅医療を行う上で、私たちの役割、言い換えると私たちを活用するメリットについて考える必要があると思います。一般的な認識としては、最後まで家で患者さんを見るために必要であるということもあるし、足腰が悪くて病院に通うことができない方に対して、私たちが訪問することで医療提供ができるというメリットもあります。患者さんが置かれた状況によって、私たちを活用するメリットも変わってくると思いますね。
一方で、色々な状況にあったとしても、私たちとしては在宅生活をなるべく長く継続することが役割です。そのためには、介護が必要な状態であることや、生活状況の問題で家に入ることができない、転びやすい、トイレに行くのが大変など、病態以外で生活が困窮する要因を把握することが大切です。
看護師さんがこうした要因を把握して報告してくれると対策を立てることができるので、本当にありがたいです。
患者さんとのコミュニケーションをうまく図るコツとは
――患者さんやご家族についての情報把握の重要性はよく理解できました。こうした情報収集のためにはコミュニケーションが欠かせないと思いますが、何かコツはありますか？
鴨下先生 大前提としては、患者さんやご家族と信頼関係がないとうまくコミュニケーションできないと思います。患者さんから「やっぱり来てくれた！」「待っていました！」という気持ちになってもらうことを目標にしています。
私は、どういう話をしたら信頼を獲得できるかと考えたことがあるのですが、その時に、患者さんやご家族が私たちのことを理解していないという問題点があることがわかりました。
「家で治療できると思っていなかった」「そこまで出来ると思わなかった」という言葉をいただくことも少なくないです。私たちが出来ることを一回説明しただけでは伝わらない人もたくさんいるので、理解していただくための声がけを繰り返すことが大事だと思います。
石橋さん 鴨下先生もおっしゃったように信頼関係を作る必要があると思います。患者さんやご家族が安心出来る声のイントネーションや表情を作ることができないと難しいと思います。
また、「家に看護師が来て何やるの？」と質問されるので、患者さんの置かれている状況に応じて、専門的な知識を持たない患者さんにも伝わる言葉で説明しています。そうすると「こういうところは看護師さんに頼っていいんだね」「在宅の先生に頼っていいんだね」と伝わります。その結果、患者さんやご家族に信頼していただくことにつながると思います。
訪問診療医と医療連携室が果たすべき役割とは
――これからの地域医療において訪問診療医と医療連携室が果たすべき役割はなんでしょうか？
石橋さん 今は世の中が目まぐるしく変わっていて、多種多様で色々な考え方を持つ方に関わることが増えていると感じています。そうした方に対して、看護師として何ができるのかを考えながら、ご家族の考えを大事にしながらも専門職として大事にしながら看護師として働くことを磨いていく必要があると思いますね。
私たちだけではなくケアマネージャーや医師、ヘルパー事業所と連携するコーディネート力は本当に高めていかないといけないと思っています。
鴨下先生 石橋さんがお話しした内容は大事なポイントだと思いますね。当院としては、これからの地域医療のキーワードは、「専門性」だと思います。
ただ、在宅医療の現場では、なんでもできる総合病院のような幅広い専門性を持つ必要性はありません。訪問診療や在宅医療が必要なタイミングは、介護認定を受けるタイミングだと言われています。要介護認定の理由の1位が、認知症、2位が脳血管障害。3位が転倒による骨折です。こうした状況と高齢化を踏まえると、総合的な医療提供を訪問診療として担保した上で、運動やリハビリなど生活を継続できるようにサポートできるような診療が必要とされていると考えています。
――ひのとり整形在宅クリニックが持つ専門性は、この状況をカバーできていそうですね。訪問看護師から見て、ひのとり整形在宅クリニックをどう評価していますか？
石橋さん ひのとり整形在宅クリニックからは、運動器疾患を抱える患者さんを紹介してもらうことが多いですね。治療と生活面のマネジメントがタイムリーに必要な方とも言えるでしょう。
ひのとり整形在宅クリニックのスタッフの方は、連携が取りやすくて、穏やかな方が多いです。看護師としての悩みも素直に相談させてもらっているんですよ。
私たち事業所も若いスタッフも多いのですが、紹介いただいた患者さんを通じて、若い人も成長していますし、スタッフ同士で連携する能力も学ばせていただいているので、感謝しかないですね。
取材後記
取材を通じて、訪問診療医の鴨下先生と訪問看護師の石橋さんがお互いに大きな信頼を寄せていることを感じることができました。こうした信頼関係は訪問医療の連携では大きな意味を持つと思います。また、「患者さんの生活環境や状況を整えた上で医療提供する」という鴨下先生の思いは、在宅診療を選択する患者さんやご家族にとっては安心感があるのではないでしょうか。
