高齢化が進む日本では在宅医療のニーズは大きく高まっています。こうした中で、入院先の病院から在宅医療に切り替える際に調整役を担っている地域医療連携室の重要性も増しています。
今回は、ゆずな内科在宅クリニック院長の吉武勇先生と、メディカルトピア草加病院の医療連携課課長で社会福祉士の木村聡一さんに、地域医療における病診連携の重要性を伺いました。
お話を聞いたのは
医療ソーシャルワーカーの役割とは
――本日はお時間をいただきありがとうございます。まず初めに、地域医療における医療ソーシャルワーカーの役割について教えてください。

吉武先生:ゆずな内科在宅クリニックでは、3人のソーシャルワーカーが在籍しています。訪問診療においては、患者さんとご家族をつなぐ最初の窓口の役割を担っています。また、病院側のソーシャルワーカーと連携して、治療歴などの情報を引き出し、適切な訪問診療を実施する下準備をしていただいています。
それだけではなく、自ら地域に出向いてクリニックのアピールを行ったり、地域でどのような医療ニーズがあるかなどの情報収集も行っています。
――ソーシャルワーカーが3人在籍する手厚い体制をとっている理由はあるのでしょうか?
吉武先生:私の考えとして、医師は医療に注力し、看護師は看護に注力したいと考えています。そのため、地域とつながる専門のスタッフが必要だと思ったのです。現在、訪問診療では約350人の患者さんを診ていますが、3人いても1人で100人の患者さんを担当しなくてはいけません。現在は新しく人材募集をしているので、4人体制にしたいと考えています。
――木村さんは、病院側のソーシャルワーカーとして、どのような役割を考えているのでしょうか?

木村さん:保険医療機関の患者家族の立場から問題を解決していくことが私たちの役割だと考えています。地域の中にはクリニックもあれば、居宅支援事業所もあります。また、行政、保健所とも病院を繋ぐ必要があります。様々な関係者との架け橋が、私たちソーシャルワーカーだと考えています。
――ゆずな内科在宅クリニックのようにソーシャルワーカーの体制が厚いクリニックはどのように感じますか?
木村さん:クリニックに連絡することが業務の1つですが、電話してすぐに相談できることは大きなポイントです。ソーシャルワーカーの体制が厚いクリニックは、そこでのスピード感が全然違うと思います。患者さんの状況などで急いで在宅医療をお願いしたい場合があるのですが、相談できる方が不在だと話が進みません。病診連携においては、電話した時につながるのはとても安心なのです。
訪問診療医と医療ソーシャルワーカーの連携方法
――連携の重要性を伺いましたが、普段の連携方法について教えてください。

吉武先生:連携は大きく分けて2種類あります。1つは、病院の患者を私たち訪問診療クリニックに連携すること。もう1つは訪問診療で解決できないこと、例えば病院にしかない機器による検査や入院治療が必要になった際などに病院と連携することです。
木村さん:私の部署はソーシャルワーカーの相談員が7人在籍しています。訪問診療の患者さんの入院治療が必要になった際は、患者さんの情報を提供していただき病院の医師やベッドを確保する作業を行います。私たちが受け入れる患者さんの入院日から介在し、療養相談から退院支援まで対応することになります。そして、訪問診療クリニックに入院時の患者さんの情報を提供してスムーズに訪問診療の現場に戻します。こうした対応を迅速に実現する体制を整備しています。
――スピーディな対応を取るための工夫はありますか?
木村さん:なるべく短時間で必要事項を確認することが重要です。また、紹介でいただいた患者さんは外来診療に入っていない医師が対応する仕組みを作っています。この仕組みにより、救急搬送や受診対応も迅速に行うことができます。
――連携方法はどのようにされていますか?
吉武先生:病診連携はソーシャルワーカー同士で連携を取るのが早いですね。
木村さん:そうですね。先生とのやりとりは電話とFAXが一番早いと思います。場合によっては、病院の医師と繋ぐことができる際には医師同士で話してもらうこともありますね。
医療ソーシャルワーカーから見た、頼れる訪問診療医とは
――医療ソーシャルワーカーから見た信頼できる訪問診療医とはどのような方でしょうか?

木村さん:患者さんの状態などの医療情報の共有は、ある程度仕組み化されています。しかし、患者さんや家族の思いを、受け入れ調整時に病院側は聞き取ることができませんので、病院に来ていただいてから確認することになります。そうした際に、クリニック側で事前に患者さんに寄り添って思いを把握していただいていると大変ありがたいです。吉武先生はまさにそういうタイプです。
また、幅広い疾患に対応をしていただける医師の方は大変ありがたいと思います。
――訪問診療医の専門性も重視されるのでしょうか?
木村さん:そうですね。訪問診療に限らず、紹介する際は疾患の専門性が重要です。訪問診療の場合は、専門性に加えてオールマイティな対応がどれだけできるか、ということも重要になります。吉武先生は心臓、肺、消化器の疾患から末期がんまで幅広く対応いただけるので大変ありがたい存在です。私たちソーシャルワーカーだけではなく、当院の医師も同様に思っていますよ。
訪問診療医から見た信頼できる医療ソーシャルワーカーとは
――素晴らしい信頼関係ですね。逆に、訪問診療医から見た信頼できる医療ソーシャルワーカーの方とはどのような方でしょうか?

吉武先生:私からは2点挙げたいと思います。1点目はスピード感を持って対応いただける方です。訪問診療は患者さんの自宅にいる状態で病院側と連携するので、時間的な猶予がない場合が多いです。ある場所で予定時間を超過すると、その後の診察日程が全て遅れてしまいます。ですから、なるべく早く問題点を解決しながら連携することが大事なのです。
2点目は、入院調整や事務手続きなどを同時進行できる方です。病院によっては紹介状を送らないと話が進まないケースもあります。その場合、訪問先で紹介状を書かなくてはいけないので、30分ほど足止めされる恐れがあります。訪問診療は患者さんのお宅まで移動する時間が発生するので、もし、ソーシャルワーカー間(もしくは看護師間)で医療情報のやり取りを行うことで話が進む場合には、この移動時間を活用して必要な書類を作ることができます。「詳細な診療情報提供書は夕方までにお届けします」という約束をした上で書類に先行して病院側の処理を進めていただけると大変ありがたいです。木村さんのように、担当の方の顔が見える連携を取れていると柔軟な対応をとっていただきやすいかと思います。
――円滑な連携には普段からのコミュニケーションが重要ということですね。
吉武先生:その通りです。私たちも勉強会や食事会を開催するなど、普段からの交流を大事にしています。木村さんは、食事会で「きむ兄」とあだ名がついたほどクリニックのメンバーと打ち解けているんです。「ちょっときむ兄に相談しておいて」という会話もよくありますね。
木村さん:そう言っていただけることは本当に幸せなことです。坊主頭で連携している医療ソーシャルワーカーは滅多にいないと思いますので、「あの坊主の人は?」という印象を与えることができただけでもプラスだったと思っています。
患者さんやご家族との関わりで大事にしていることとは
――確かに吉武先生と木村さんの仲の良さはインタビューを通じて感じています。コミュニケーションといえば、患者さんやご家族との関わり方もとても重要だと思います。大事にしていることはありますか?

吉武先生:大切にしていることは、「寄り添う」ことです。病気に寄り添うのはもちろん、患者さんやご家族の思いに寄り添うことが大事です。病院では病気を治すことに特化しているので、医師が主導権を握っています。一方で、訪問診療で主導権を握っているのは、患者さんとご家族です。患者さんやご家族が、訪問診療を通じてどう在りたいのかを大切にする必要があります。
――患者さんやご家族と目線を合わせることが重要なのですね。患者さんやご家族の思いを把握するために気をつけていることはありますか?
吉武先生:まずは信頼を得るのが一番大事です。どういう考えをお持ちなのか、いち早く認識して懐に飛び込む必要があります。中には気難しい方もいらっしゃいますが、様々な疾患を抱えた状況で不安に苛まれていたり、生活環境などの問題が影響していたりする場合もあります。こうした事情をきちんと理解して、伴走していくスタンスを徹底することで少しずつ信頼を得ることができると考えています。
木村さん:吉武先生のお話はまさにその通りだと思います。私から付け加えるならば、患者さんやご家族に説明したことが伝わっているのか確認することが大事だということです。必要な情報を本当に理解されているのか、患者さんやご家族の表情を注意して観察し、必要であればフォローアップの説明を行うなどの対応をしています。
――説明への理解や納得感を把握することはとても難しいと思っています。どのように測っているのでしょうか?
木村さん:患者さんやご家族が医師の説明に対して「わかりました」と返事した後に、私たちから別の角度で質問して理解度を測るなど工夫しています。違う角度から医師が話した同じ内容を質問しながら聞くと、実はわかっていないケースも少なくありません。最近は、患者さんだけではなくご家族も高齢というケースも増えているので、必要な情報の説明は、医師、看護師、そしてソーシャルワーカーと複数の担当からお伝えしていくこともあります。
吉武先生:理解をいただけないケースをもう少し深掘りすると、聞きたい情報を聞きたい時に届けているのか、という問題もあると思っています。
そのため、患者さんやご家族が聞きたい情報を事前に把握することが重要になります。特に終末期医療の患者さんやご家族の、受け入れ方は皆さま異なります。例えば、病院で説明を受けた上で訪問診療の利用を決めたにも関わらず、「一回も聞いていない」と言われることはよくあることなのです。患者さんやご家族が必要とする情報を、適切に提供することが求められていると思います。
――先生が医療ソーシャルワーカーの重要な役割の1つに情報収集を挙げていたのですが、こうした対応にも生きてくる要素ですね。
吉武先生:おっしゃる通りです。まさに医療ソーシャルワーカーさんの情報収集力が生きてくるところですね。加えて申し上げると、他職種で色々な方向で患者さんやご家族を見ていくこともとても大事です。私たちのクリニックではこの視点を大事にしているので、毎朝8時半に全体ミーティングを行い、医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、理学療法士で情報を集約しています。
訪問診療に対して感じている課題とは
――スタッフ全員が同じ方向を向いて進むことはとても大事ですね。お二人は訪問診療における課題を感じていますか?
吉武先生:一番の課題は、訪問診療というサービスがあまり知られていないことです。私が患者さんの立場になって考えると、こんなにいいサービスはないと思っています。24時間体制で看護師と連絡が取れて、必要であればすぐに医療従事者が動く仕組みがあるからです。この柔軟な運用はどうしても病院では難しいと思います。
――訪問診療の認知度拡大のアイディアはありますか?

吉武先生:現時点では地域に根付いた活動を意識しています。また、病院との連携をしっかり行うことで、訪問診療という選択肢があることをお伝えしています。
また、クリニックの3階にはイベントなどを行うことができるスペースがあるので、地域の医療関係との勉強会や市民公開講座などを企画したいなと考えています。
木村さん:吉武先生がおっしゃったように、訪問診療で受けられる医療の内容が浸透していないと思います。病気になると病院か施設という選択肢になっており、在宅では無理と思われている方も少なくありません。ご家族の協力は必要ですが、体制を整えれば在宅でも、病院施設と近い部分の生活ができると思います。
患者さんもご自宅で最後まで過ごしたいと希望される方も多く、訪問診療について啓発活動を行いたいと考えています。具体的には私たち医療ソーシャルワーカーが、退院調整をどれくらい実行できるかが重要です。患者さんをご自宅で迎え入れる環境が整えば、患者さんは家に帰れますので、しっかりと力を入れるべきだと思います。
吉武先生:病院側の医療ソーシャルワーカーの方が、こうした意識で対応をいただけると大変ありがたいですね。病院の入院患者さんが自宅で最後を過ごしたいと希望される一方で、訪問診療の患者さんやご家族が、病院で最後を過ごしたいと希望するケースも実は一定数あるんです。メディカルトピア草加病院でも訪問診療をしているので、こうした事情もよく理解されています。こうした点も木村さんと連携が取りやすい理由の1つになっています。
訪問診療医と医療ソーシャルワーカーが果たすべき役割とは
――病院側の訪問診療への理解度が高いことはありがたいですね。これからの地域医療において訪問診療医と医療ソーシャルワーカーの皆さまが果たすべき役割について教えてください。

吉武先生:訪問診療医と医療ソーシャルワーカーの連携は、地域医療において欠かせない要素です。この連携なくして地域医療は立ち行きません。電子カルテを一元化して、様々な関係者が情報を共有できるという仕組みを実現する動きはありますが、まだ一般的には普及していません。やはり医療ソーシャルワーカーに入ってもらうことで、地域医療がスムーズに展開できると思います。
訪問診療医としては、受け取ったバトンをきちんと繋ぐことを意識して治療に当たっています。そのためには、自宅にいても安心して治療を受けられる環境を作ることが大切であり、当院の体制づくりにも注力したいと考えています。
木村さん:これから求められるソーシャルワーカーの役割は、患者と地域を結びつけることだと思います。専門性を活かして誰もが安心して過ごせるようにすることが重要です。地域に適切な制度がなければ、私たちから提案していくことも必要になるでしょう。
いち医療機関では新しい仕組みを作ることはできないので、地域を巻き込みながら適切な医療体制を構築する動きをしていきたいと思います。訪問診療の先生と密に連携して、地域の質を上げるという視点で取り組むことが、地域医療の底上げに繋がります。これこそが安心して暮らせる地域の実現に必要なことだと考えています。
(取材後記)
吉武先生と木村さんのお話を伺い、患者さんやご家族目線での取り組みを徹底する思いを強く感じました。訪問診療は医師だけではなく様々な医療従事者の協力があって初めて成立します。吉武先生と木村さんのような他職種の医療従事者同士の強い信頼関係が、地域医療の推進において大きな力になるのではないでしょうか。
(執筆:メディコレ編集部)
