健康や美容目的で体重を減量するダイエットは、多くの人が実践した経験があると思います。様々な目的でダイエットに取り組む方がいますが、「体重を減らすこと」に関して、何が正しい情報かを理解しないままダイエットをするケースは少なくありません。また、中には体重を減らすことは「見た目を改善すること」だけだと思い込み、様々な健康障害の原因となる「肥満」や医学的な治療を必要とする「肥満症」という深刻な慢性疾患を見落としてしまうこともあります。
しかし、自分が「肥満症」であると自覚されている人は決して多くはありません。いったいどのような場合肥満症に該当するのでしょう?また、その健康リスクとは何なのでしょうか。
肥満症とは何か、また正しい治療や減量とは何かについて、肥満症治療や糖尿病治療に詳しい日本橋れいわ内科クリニックの井内裕之先生にお話を伺いました。
お話を聞いたのは
■肥満と肥満症の違いとは?肥満症のリスクと治療法
【編集部】
先日受けた健康診断で「肥満」と言われてしまいました。痩せたほうがいいかなとは思いつつ、なかなかダイエットが続かないんですよね。そもそも肥満とはどのような状態を指すのでしょうか?

【井内先生】
肥満は太っている状態のことです。日本肥満学会による肥満の定義はBMI 25kg/m2以上とされています。
【編集部】
なるほど、きちんと定義があるのですね。ダイエットが苦手でして、これって放っておいてはやはりまずいですよね?
【井内先生】
単なる肥満であればよいとも言えるのですが、そこに色々と生活習慣病の要素などの健康障害が入ってくると肥満症という病気になります。肥満症はBMIが25 kg/m2 以上で、下記の11種類の健康障害のうち1つでも当てはまる場合に該当します。あるいは、健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合(腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上)です。
(1)耐糖能障害(2 型糖尿病・耐糖能異常など)
(2)脂質異常症
(3)高血圧
(4)高尿酸血症・痛風
(5)冠動脈疾患
(6)脳梗塞・一過性脳虚血発作
(7)非アルコール性脂肪性肝疾患
(8)月経異常・女性不妊
(9)閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群
(10)運動器疾患(変形性関節症:膝関節・股関節・手指関節、変形性脊椎症)
(11)肥満関連腎臓病

【編集部】
肥満症になるとどれほどの健康リスクがあるのでしょうか?
【井内先生】
よくテレビなどでも「体重が増えた人は危ないですよ!」「命にかかわりますよ!」というようなシーンを目にしますよね。かなり進行してしまった肥満症だと、実際に命の危険が迫っている場合もあります。しかし、そこまでいかなくてもBMIが増えてしまった人は、慢性疾患が発症しやすい状況である可能性が高いです。
切迫した状況でなくても、10年後や20年後といった将来に、重大な病気が発生するリスクが高まるのです。重大な病気の代表例が脳梗塞や心筋梗塞 ですね。
実は、上記のような病気に罹った方が、以前から自覚のない肥満症だったケースはとても多いのです。併存する健康障害によっては、特に症状のない肥満症は痛くも痒くもない病気なので、本人は長い間気が付かないんですよね。しかし、放置すると将来的には大きな健康のデメリットになります。自覚できる症状がないうちに、「肥満症」を知って頂くことは重要だと思います。
【編集部】
肥満症になると、将来のことも含めて健康リスクがかなり高まるのですね。怖くなってきました。肥満症はどのように治療するのでしょうか?

【井内先生】
まず目的として、肥満症治療は見た目をよくすることではなく、最終的に「肥満に起因する健康障害を改善すること」、言い換えると「健康寿命を長く保ちQOLを高めていくこと」だと思います。
そのために様々な治療選択肢があります。肥満症治療の大前提は、食事をしっかり制限することです。そして、可能であれば運動もすることが重要です。
その上で肥満症治療薬を使った薬物療法も可能です。また、一部の方に対しては、外科手術を行うこともあります。
【編集部】
肥満症であれば色々な治療方法があるのですね。
■ダイエット薬って危険?使用した際のリスクとは
【編集部】
先生、肥満症の治療方法でも出てきましたが食事制限も運動も苦手なので、実は今話題のメディカルダイエットをちょっと検討していたんです。
最近、痩身目的でダイエット薬を使用して減量するメディカルダイエットが流行っていますよね。「食べても太らない」といった宣伝が魅力的で気になっているのですが。
また、ネットではやせ薬、とかダイエットを目的とした薬がたくさん売られていますよね、こういったものは大丈夫なのでしょうか?

【井内先生】
「薬を飲むだけで食事制限をしなくても瘦せられる」と謳っている施設などがありますね。はっきり言いますが、これは間違いです。適切な食事や運動などの健康習慣とセットでダイエットをしないと意味がないですよ。
そもそも、「ダイエット薬」や「GLP-1ダイエット」などと呼んでいるGLP-1受容体作動薬についてご存知でしょうか?この薬を使ったダイエットのリスクを知らずにブームになってしまっている最近の状況に危機感を覚えていたところです。
【編集部】
いえ、あまり知らなかったです・・・、リスクもあるのですね。どのようなお薬なのでしょうか?
【井内先生】
GLP-1受容体作動薬は、膵臓のインスリン分泌を促進するGLP-1というホルモンと同じように、血糖に応じて膵臓からインスリン分泌を促す薬で、元々は糖尿病の治療薬として用いられてきました。その後、食べ物の吸収を遅らせる働きや、脳に作用して食欲を抑える働きがあることがわかりました。その結果、体重が減少するのですが、最近はこのダイエット効果に大きな注目が集まっています。
糖尿病の薬としては歴史がある薬なので、糖尿病を専門にしている医師は以前からよく使っていたんですけどね。
ただ、薬なので当然といえば当然ですが、副作用もあります。
【編集部】
どのような副作用があるのでしょうか?
【井内先生】
お腹に作用する薬ですので、下痢、便秘、腹痛などが起こる可能性があります。また、吐き気や嘔吐、低血糖症状が出てフラフラしてしまうことがあります。さらに、急性膵炎が出る恐れも知られています。
過度なダイエットなどで低体重(BMI 18.5kg/m2未満)になると、ホルモンバランスが崩れる可能性があります。特に女性の方が過度のダイエットを行うと、生理もこなくなるなどの月経異常が起こるリスクもあるんです。
糖尿病や肥満症の治療対象ではない方がGLP-1受容体作動薬を使うことで一番怖いことは、実際にどのようなことが起きるかわからない、ということです。美容ダイエット目的の方が使うことで、今は誰も気がついていない健康被害が出てくるリスクが潜在的にあるのです。
また、減量後のリバウンドのリスクもあります。
先ほど述べたように、適切な食事や運動などの健康習慣をつけてダイエットしないと意味がありません。永久に薬を飲むわけにはいかないですよね?
私たち医療機関が最終的に達成すべきことは、患者さんを健康にすることです。一時だけ体重を減らしたり、または必要以上の減量で低体重にしてしまったりするようではだめです。しっかりとした健康知識をつけ、自分の適性体重を知ったうえで、その状態をキープすることが肝心です。薬がなくなったあとにリバウンドしないように対策をすること、正しい体重の減らし方をしっかり伝えることも重要なのです。

【編集部】
リバウンドのリスクは想定していなかったです、確かにその通りですね。
また、糖尿病や肥満症などの病気ではない人がGLP-1受容体作動薬を使った場合、安全性が確認されていないため、未知な副作用がでる可能性もあるのは怖いですね。
【井内先生】
たしかに副作用は怖いものですが、適切に使用する場合はそれほど恐れることはないんです。むしろ正しく使うのであれば、効果が保証されている薬の中でも重篤な副作用は少ない薬と言えるでしょう。
【編集部】
なるほど、正しく使えば怖くないんですね。
本日先生に教えていただいたような正しい体重の減らし方や、肥満症の健康リスクなどについての情報を知るためには、どうしたらいいでしょうか?
【井内先生】
お近くの専門の医療機関にご相談いただければと思います。
また、一般的な肥満や肥満症についての情報は、学会や企業のウェブサイトを活用して簡単に調べることができます。例えば、製薬企業の疾患啓発サイトも参考になると思います。
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【編集部】
さっそく教わったように正しい情報を調べて、かかりつけ医や適切な医療機関に相談してみたいと思いました。
井内先生、本日はたくさん教えていただきありがとうございました!
【井内先生】
こちらこそ、ありがとうございました。
■編集後記
肥満症は医学的に治療が必要な状態であり、将来の健康リスクにも大きな影響を及ぼすことについて理解が深まりました。
手軽にダイエットがかなうのではとメディカルダイエットを検討していましたが、井内先生がおっしゃった「糖尿病などの治療対象ではない方がGLP-1受容体作動薬を使うことで一番怖いことは、実際にどのようなことが起きるかわからない」というお言葉がとても印象に残り、正しい体重の減らし方について学べてよかったです。
自分がもし肥満症だったらと思うと放置せずに、まずは知ってみること、そして早めに専門の医療機関を探して相談しようと思った取材でした。
(取材:クリニックナビ編集部・メディコレ)