目の健康を守るためには、「自覚症状のない段階で異常を見つける」ことが重要です。特に緑内障のような進行性の病気は、初期のうちは気づかないことが多く、早期発見のために、40歳を過ぎたら眼底検査を含めた目の検診が欠かせません また、中高年だけでなく、子どもの視力発達においても、弱視や斜視を早期に発見し、適切な治療につなげることが大切です。
今回お話を伺ったのは、神戸市灘区で地域密着の診療を続ける谷眼科医院 院長・谷恵美子先生。検診で指摘されやすい項目や、日常診療で大切にしていることについて、わかりやすくお話しいただきました。
お話を聞いたのは
目の異常を指摘されたら放置せず眼科へ相談を

――本日は眼科検診について、日頃よく聞かれる疑問や、見落としがちなポイントなどを、先生にわかりやすく教えていただけたらと思っています。
はい、よろしくお願いいたします。
――健康診断や人間ドックの眼科検査で引っかかった場合、自覚症状がなければ、放置しても問題ありませんか?
検査結果に要受診と書かれていたら、何かしらの異常が見つかった可能性があります。出来るだけ早めに眼科を受診することをおすすめします。
目の病気は自覚しにくいものも多いため、検査を受けることで早期に疾患を見つけて、必要な治療につなげることができます。眼科では視力や眼底などを詳しく調べたうえで、必要に応じて一緒に治療方針を考えていきます。
――健康診断では、どういったときに「要受診」とされるのでしょうか?
視神経や黄斑(網膜の中心部分)など、見え方に大きく関わる部位に異常がある可能性が見つかった場合が多いです。
たとえば、「視神経乳頭陥凹拡大」といって、視神経線維が眼球から出ていく出口の部分の陥凹(へこみ)が拡大している所見が見られると、緑内障の疑いがあるため「要受診」とされることがあります。ご本人にはほとんど自覚症状がないことが多く、眼底写真を撮って初めてわかる異常のひとつです。
また、黄斑の上に膜が張っている「黄斑上膜」や、眼底出血が見られる場合にも、視力や視野に影響を及ぼす恐れがあります。
眼科検診で見つかる異常と考えられる主な病気

――視力低下と指摘された場合、どのような病気が考えられますか?
視力低下の背景には、さまざまな理由が考えられます。たとえば、白内障のように水晶体が少しずつ濁ってくる病気や、網膜の中心が影響を受ける加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、網膜剥離といった病気などです。
また、視力が落ちているように見えても、実は眼鏡やコンタクトが合っていなかったというケースもあります。
――眼圧検査で異常値が出た場合、どのような病気が疑われますか?
眼圧とは、眼球の固さのことで、正常値は20mmHg以下とされていますが、数値を多少超えていても問題のない場合も多くあります。
30年ほど前には、緑内障は、眼圧が上がり視神経が障害されて視野が狭くなる病気だと言われていました。ただ、現在は、9割方ぐらいが正常眼圧緑内障のため、一概に、眼圧が高い=緑内障とは言えません。
ただ、近視が強い、眼圧が高いといったケースは、緑内障のリスクファクターの1つです。視神経乳頭陥凹が拡大している方、近視の強い方、眼圧が正常値を超えている方は、定期的な眼科受診をおすすめします。
――検査結果に「中間透光体混濁」と書かれていました。これはどういう状態ですか?
「中間透光体」とは、目の中で光を通す“透明な通り道”を指します。角膜や水晶体、硝子体などがそれにあたり、本来はどれも澄んでいるべき構造です。
ところが、これらのどこかが濁ってしまうと「混濁あり」と診断されることがあります。代表的な例は白内障です。加齢によって水晶体が少しずつ白く濁ることで視力に影響を及ぼします。
また、硝子体の中に出血や炎症がある場合や、角膜が傷ついているときにも混濁が見られることがあります。検診でこのような所見があった際は、早めに眼科で詳しい検査を受けることが大切です。
目の検診はライフステージに合わせて
――眼科検診はどれくらいのペースで受けるのがよいのでしょうか?

日本眼科医会では、40歳を過ぎたら年に1回を目安に、眼科専門医による検診を受けることをすすめています。30代までは数年に一度のペースでも構いませんが、40代からは緑内障や加齢黄斑変性といった病気が増えてくる時期です。検診を生活習慣のひとつにしていただけたらと思います。
さらに、ご家族に緑内障の方がいる場合はよりリスクが高いので、是非検診を受けるようにしてください。
――白内障については、いつ頃から気にかけたほうがよいのでしょうか?
かつては、白内障といえば主に65歳以上の方に多いとされていましたが、最近では70〜75歳ごろに進行するケースが増えている印象です。
ただし、糖尿病をお持ちの方や、コレステロール値が高い方、紫外線をよく浴びる方、アトピー性皮膚炎のある方などは、40〜50代の比較的若い年代でも白内障が進行する可能性があります。
ご自身の年齢や体質に合わせて、目の状態も定期的にチェックしながら、早めのケアを心がけることが大切です。
幅広い世代を支える丁寧な診療と地域連携

――診療のなかで、特に大切にしていることは何でしょうか?
当院には、小さなお子さんからご高齢の方まで、幅広い世代の方にご来院いただいています。小児眼科や斜視・弱視、角膜疾患の診療にも力を入れており、お子さんでも検査を受けやすくなるよう工夫をしています。
診療で特に大切にしているのは、できるだけわかりやすく、納得していただける説明をすることです。視神経や網膜の画像をお見せしながら、病気の状態や治療方針を視覚的にご説明するほか、目の傷なども染色して状態の変化を確認していただけるようにしています。
OCT (光干渉断層撮影) や眼底カメラなどの検査機器も活用しながら、丁寧な診療を心がけています。また、20年以上勤務するスタッフも多く、あたたかく落ち着いた雰囲気の中で診察を受けていただけます。
――先生の専門分野について教えてください。
もともと兵庫県立こども病院に勤務していた経験から、小児の斜視や弱視の診療は、私の専門のひとつです。お子さんの視力の発達には「今、この時期に見つけてあげること」がとても大切で、早期に気づいてあげることで改善が期待できる病気もあります。適切な時期に適切な治療を開始できるよう、丁寧な診察を心がけています。
その後は大学で角膜の研究に携わり、角膜疾患やコンタクトレンズ、オルソケラトロジーといった角膜に関わる治療にも取り組んでいます。
――地域医療にも積極的に関わっておられると伺いましたが、詳しく教えていただけますか。
はい。地域の目の健康を守ることは、私にとって大切なライフワークのひとつです。
神戸市眼科医会の公衆衛生部担当として神戸市医師会、神戸市こども家庭局とともに母子保健委員としての活動をさせていただきました。全国の都市に先駆けて、「スポットビジョンスクリーナー」という機器を3歳児検診に導入する事に成功しました。この機器は、乳幼児でも遠視や乱視などの屈折異常を検出する事ができ、弱視のあるお子さまを早期に見つけるのに役立っています。
視力の発達には「年齢によるタイミング」があるため、3歳という視力の獲得に大切な時期に異常に気づける体制が整ったことは、私にとっても大きな意義を感じています。
――最後に、来院を検討されている読者へのメッセージをお願いします。

目のことは、少しの違和感でも気になるものです。「これって大丈夫かな?」という小さな不安をお持ちの方は、どうぞ気軽にご相談ください。
身近な目の専門医として、地域の皆さんをサポートできればと思っています。
――取材中、谷先生の言葉のひとつひとつに、患者様へのやさしさと責任感がにじんでいいたことが印象的です。穏やかであたたかなお人柄に加え、確かな専門性と経験に基づく説明はとてもわかりやすく、「身近な目の専門医」として信頼される理由が伝わってきました。
(取材:メディコレ編集部)
提供:クーパービジョン・ジャパン株式会社
